― 伝わりますか ―
「しかし父はわしより弟を愛した。誰よりも父の言う事を良く聞く、そんな人形のような弟をなっ!」

 カッと目を見開く。脳裏に現れたのは憎き父、哀れな自分……そして人形の弟……。

「父は悩んだ。このままではわしに実権を握られる。……考えた末に至ったのは、わしを勘当することだった。父は、わしが弟を暗殺する謀略を立てていると偽りを流し、わしとわしの家来を追放した。……橘 左近は、八雲 悠仁采と名を変えた」

 そして月葉を離し、話を止めた。

 突然自由にされた所為で体勢を崩した彼女は、涙を見せぬために背を向けた悠仁采の広い背中を見詰める。

「お前を、わしの二の舞になどしたくないのだ」

 彼のそんな小さな呟きも、彼女は聞き逃さなかった。

「親に振り回される人生などに縛らせたくはないのだ」

 彼の背が小刻みに震えている。泣いているのだ。月葉は悠仁采と同じ事を繰り返す自分に大きな痛みを感じた。胸の奥が痛んで息が苦しくなる。


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