― 伝わりますか ―
「只今伝令が入りました。百数十の軍勢、こちらに向かっているとのことです!」

 男は眉間に汗をかきながら口早に説明をし息をついた。遠方より走ってきたのだろう。息が荒い。

「……早いな。間者でも出たか?」

 と、悠仁采は驚く様子もなく()う。見知らぬ輩が出入りしていた可能性があると見なければなるまい。

「分かりませぬ。……敵は織田。昨朝水沢と和睦約束し、月姫を人質として織田信秀の近縁(なにがし)かの元へ輿入れさせるに至ったとのことですっ」

 事は悠仁采の予測どおり運ばれたようだった。そして今が時だ。彼は顔色を変えるや、すっくと立ち上がった。やがて雄々しく叫ぶ。

「敵は織田。……よし、早急に籠を用意しろ! 月葉を探し出し、お前は堺まで運べ。我らは(いくさ)の支度をする!」






◆以降は2014年に(他サイトにて)連載していた際の後書きです。

 町医者 無束院を営む明心は【序】でも明らかにしております通り、忍者 葉隠の頭領なのですが、彼と悠仁采の『繋がり』は、初秋に連載予定の【弐】にて明かされます。


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