― 伝わりますか ―
「八雲殿……でござりまするな。隣におられるのは月姫様とお見受け致しまする。この戦い決着は見えてござる。月姫様さえお戻しいただければ、これ以上はもはや何も……」

 と、月見草の上に腰を降ろしたままの悠仁采を馬上から見下ろした。言葉は丁寧でも、飽くまでも態度は『上』を占めている。

 これほどの反目の騒動に眼をつぶるというのであるから、相当のつわものと見るべきであろう。いや、もしくはこの武士も想うところがあったのかも知れない。同情にも似た……しかしそれも大怪我を負ったこの青年が、遠からずその傷で命を落とすことになると予期するなら、この場はせめてこのまま治めて……そう考えたとも限らないが。

「……ゆうじ……んさ……いさま」

 彼女が起き上がるのにつられて、悠仁采も生気を抜き取られたかのように立ち上がった。

 いつの間にか手中には月見草一輪握らされている。月葉が摘んだものであった。彼は表情を蒼白にすると、

「月葉、まさか……」

 と、震えながら句を継いだ。


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