― 伝わりますか ―
「ゆうじんさいさま」

 彼女は薄く笑む。そしてにっこりと。背を向け、駆け出す。向かう方向は、もちろん織田軍である。

「月葉っ! ……駄目だっっ、何故、何故行くのだっ! そっちへ行ったら連れていかれるっ。……月葉!!」

 悠仁采は狂ったように眼を大きく見開き、叫んだ。家臣に押さえられ、身動きが取れなくなる。

 ──悠仁采様、あなた様さえ生きていてくださったら、私はそれで良いのです。たとえ命と引き換えになったとしても……全てを無くす愛ならあなたしかなかったのだから──。

 月葉を乗せた馬は、織田軍の疲れきった兵共と徐々に遠ざかっていった。闇に取り残されたのは、八雲軍と無数の死体である。

 ──伝わりますか。今もたどれるものなら、もう一度あなた様のお傍に居たい。

 月葉は気取(けど)られぬよう、(ひそ)かに泣いた。

 そしてもう一つ、この連なる山々に轟いたのは、悠仁采の無情な叫びである。


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