― 伝わりますか ―
「おじじ様の御名は?」

 秋がそんな問いを発した刹那である──。

 (いくさ)に追われてきた性分故に、気配の察知が早い悠仁采は、果たして小屋に近付いてくる物音に気付いた。

 鋭く研ぎ済まされた戸口へ向かう視線はすぐに二人に気付かれ、三人のそれが一点に集中するが、物音の主は狩人なのだろう、秋の表情は戸の開かれる前から優しいものに変わっていた。

「右京様だわ」

 秋はそう言って戸口へと駆け出す。彼女の明るい笑みが多少変化を帯び、それは昔悠仁采が月葉を、月葉が悠仁采を見詰めた、あの柔らかい感覚に少しも違いがないことを悠仁采は悟った。自分の『半分』を見つけたあの感覚──。

「やはり姫でしたか。……伊織様、お久し振りでございます。あ……」

 静かに歩み入ったその青年は、紛れもなく狩人であった。上着の上には何やら獣の皮を(まと)い、腰巻から筋肉質な素足が覗いている。左手には弓を持ち、右手には今日の獲物であった兎三羽がぶら下がっていた。


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