― 伝わりますか ―
 伊織と秋の両親は既に他界している。水沢家の嫡男は伊織ではあるが、以前は未だ若過ぎると周りが危惧し、二人の母の弟がお目付け役として実質実権を握っていた。が、伊織も既に成人し、自由は利かなくなっている筈だ。いや、二人の年齢からして、今でもこうして山で遊べるのは、相当周囲を(あざむ)いているに違いない。

「おじじ様、まもなく煎薬が切れます故、また弟切を摘んで参ります。余り根を詰めず、お休みになっていてくだされませ」

 戸口に積まれた籠を覗き込んだ秋は、そう一言声を掛け、返事を待たずに飛び出していってしまった。
 ふう、と一息、秋の淹れてくれたお茶を呑んで溜息をつく。元気の良さは誰にも負けぬな、と苦笑し、囲炉裏の炎を見た。だがその元気もいつまで続くのであろう? 悠仁采は伊織の、あの何かに耐える表情を思い出し、微かな胸騒ぎに身を震わせた。



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