― 伝わりますか ―
「何を……おっしゃっているのです……?」

「かねてより敏信殿に申し入れていたのです。それがやっと本日お許しを頂けた次第。お館様も喜んでおられます故」

「信長様が……?」

 信近は(あらが)う秋を抱いた。首筋に触れる信近の熱い肌が恐怖心を煽り、秋から抵抗する力を吸い取っていく。愕然とした事実と兄への猜疑心が、身体の中心から先端へと向けて麻痺を及ぼしたが、しかし己の身の上を思えば、致し方ないこととは理解出来ていた。しかし、今は──未だ、今は──。

「信近様っ、おやめくださいっ……兄に聞かねば、納得がいきませぬ」

「そのようなこと……私が嘘をつくとでも?」

「それに……三日後ならば、未だ私は、貴方様のものではござりませぬっ」

 しかし乱れた衣から、露わにされた(もも)に信近の手が触れた時、男の本性は剥き出しとなった。

「よもや……そなたの肌に触れた今……何も云うまい」

 押し倒された秋の身体に()し掛かる黒い影は、秋の未来とも云うべく暗黒の闇であった。


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