― 伝わりますか ―
 執拗に(まさぐ)る男の手が腰元へと向け、上へ上へと昇り始めた時、秋はいたたまれず叫び声をあげ、動きの取れぬ身体を懸命に揺さぶった。が、信近は秋の髪を乱暴に引き、彼女の力を遮ると、鎖骨の辺りに顔を(うず)めて勝者の雄叫びをあげた。男の息が彼女の汗を凍らせた。

「大声をあげても、誰も来はせぬ……三日後も今も想いは同じ。この時を長く待ちましたぞ……いや、この時はこれから永遠に続く……の……で……」

 秋はもはや観念したように、大地に身体を任せて瞳を閉じ泣いていた。が、信近の傲慢な台詞は後半苦しみを示しながら掻き消え、と同時に力の抜けたその身が秋を圧迫した。余りの重さに視界を開けば、涙で曇ったその先に白い人影が映り、その者は無造作に人塊と化した信近を、秋の上から退()かしてやった。

「間に合ったか……」

「おじじ様!」

 それが悠仁采その人だと判るや、秋は跳ね起き、彼の胸元へ抱きついた。秋の叫びに急ぎ駆けつけたのであろう、悠仁采の息は荒い。寝着とされていた白い衣は、良く見れば何かで(まだら)に汚れている。はっとして振り向いた秋は、足元に倒れた信近の背中に、右京が使っている草刈の鎌を見た。それは半身(はんみ)が埋め込まれるほど、深く信近の身体を貫いていた──。


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