【短編】会いたいと切に願う

あれっ?
何か、キ……ス、したいかも。

って、うわぁー!!

何考えてんだ、私。


ブルブルブルブルッ。


思いっきり頭を横に振る。

髪が鞭のように彼の顔にぶつかっていることにも気付かずに。



「ひいらぎ……」



名前を呼ばれた時には、彼の顔には赤い線がいくつもできていた。


うぎゃーっ!!



「ゴメンネッ」



慌てて訳の分からない行動を起こす私を見るなり、彼は苦笑して、



「いいよ、その代わり……」



その後は不敵な笑みを浮かべて手を離した。



「ひゃぁ!!」

「ハハッ。その声、可愛い〜」

「だ、だっ……だっ、だってー」



軽く持ち上げられた私は彼に抱きかかえられ、軽やかなステップで連れ去られていた。


人並み外れた彼の体力。

ものすごいスピードで瞬く間に景色は変わっていく。


彼は一体何者?


私を抱き抱えているのにこのスピード。

自転車……ううん、まるで車みたいな速さ。



「こわいーっ!!」



私は彼の体にギュッーとしがみついて目を瞑った。


風をきる音と雪の降る音、そして彼の息遣い、それ以外耳に入ってこなかった。


どれだけの距離を進んだんだろう。

彼がようやく立ち止まったところで、ゆっくりと目を開けた。



「うわぁー。すごーい」

「だろ」



目前にそびえ立つ白く化粧された山。

その麓にある紅葉山公園。

名前の通り秋には赤く色付く紅葉で有名な場所なんだけれど、今は綿毛のような雪を咲き誇らせていた。


吹雪も落ち着き、雲の合間から太陽の光りが差し込む。

降り積もった雪が白く光りを反射させている。



「ちょっと歩こうか」



その場におろされ手を握りしめられると、彼は山に向かって歩きだした。


もう、抵抗する気もなくなっていた。


まぁ、楽しいからついていってみようかな。





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