【短編】会いたいと切に願う
「あ〜。まだ分かってなかったんだ」
「頭固いから、こういうのは苦手なのよ」
不貞腐れて頬を膨らませて視線をずらした。
片足で雪を蹴りながら穴を掘ってみる。
結構深いなぁなんて思っていると、その瞬間にまたもや手を握られて引っ張られる。
「どこ行くのよーっ!!」
「そうだな〜、じゃあ今日は」
「今日は?」
「試験前日、勉強していないひいらぎが焦ってはるものは何?」
私?
何かはるっけ。
湿布……サロンパス……やだ、年寄りみたい。
「何もはらないわよ!」
「アハハッ、なぞなぞだよ。分かんない?」
「分かんないっ!!」
歩きにくい雪道に二人の声だけが響き渡る。
雪にコダマして反響して聞こえてくる声。
「着いたら分かるよ〜」
「どこに?」
「着いてからのお楽しみ」
そんなことを言われ、手を握り締めたままの彼はどんどん歩いていく。
私、何で彼に逆らわないんだろうなぁ。
絶対怪しいじゃん。
今度こそ……ホテル?
いやいや、それはないよね。うん、大丈夫。
「ねぇ、ひいらぎ〜」
「んっ?」
「青春かえせーって何?」
歩きながら顔だけを私へと向け、熱い眼差しで見つめてくる。
と、まぁそれは勘違いとして。
あっ、よく見ると肌も白くてきめ細やかだし、瞳の色素も薄くて透き通るようだし、綺麗かも。
相変わらず見た目ヤンキーなのにね。
「ねぇ?」
「ん? あっ、そうだった。青春かえせね。……ちょっと、ちょっと聞いてくれる!?」
あーっ、思い出しただけでも腹立たしい。本当に青春かえしてよ!
頭の中に冬真の顔が浮かび上がったから手でパパッと払い除け、ものすごい剣幕で彼に詰め寄った。
足を止め、今にもキスできそうなくらいの距離までに……。