【短編】会いたいと切に願う

「くっついたほうが寒くないだろ。……それとも、抱き締めちゃおうか?」

「いやっいい。このままでいいですっ!!」



私の反応を見て、クスクスと笑う彼。

何か、すっかり彼のペースに引き込まれている私。


だけど、不思議と悪い気はしないんだよね。


さっき失恋したばかりだから?


うーん、私、失恋したくらいで落ち込んだりしないんだけどな。



「なぁ、雪……綺麗だろ?」

「えっ、うん」



彼の言葉はいつも本当に突然。

脈絡がないんだよね。


私は空を見上げる。

雪は本当に綺麗。


海に近づくほどに、七色の光の波に落ちては消えゆく雪の、儚くも美しい光景を目に焼き付ける。



「……クスッ」

「何笑ってるのよ?」

「思い出し笑い。さっき海に向かって叫んでただろ?」



アハハッ。
確かに叫びましたよ、叫びましたとも。

悪い?
問題はないでしょ。



「一人で海に向かって叫んでる姿見てたら、面白くって興味湧いちゃった」



腰にまわされた手はさらに体を引き寄せられて、ピッタリとくっついた体から胸の鼓動が聞こえるほどだった。


私、何してるんだろう……。

まぁいっか!
独り身だし、誰に咎められるわけでもないしね。


よく分からないけど、何だか心地いいし。



「あっ、もう帰らないと」

「はいっ?」

「悪いな〜。またな、ひいらぎ」



ちょっと待ってよー。

おーい。


心の声は誰に届くこともなく、波に消されてしまった。

再び一人取り残された私は海に向かって、



「一体何なのよー!!」



と叫んでいた。



……これが、私と一五の衝撃的な出会いだった。




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