【短編】会いたいと切に願う

「おいで?」



握手したままの手をギュッと握り締められると、無理やり引っ張られる。



「ちょっとどこ行くのよ!」

「秘密〜」

「ねぇ、ちょっと待ってってば。どこに行くかだけでも教えてよー」



もしかしてこのままホテルに連れ込まれて……。

うわーっ、さすがにそれはやばいでしょ!



「じゃあね〜、問題」

「はいっ?」


「うるさく喋っていると、静かにって注意される場所は?」

「えっ、と」



静かに静かに静かに……。

分かんないっ!!



「ブブーッ、時間切れ。ほら」



急に立ち止まった彼は、手を離して正面を向いた。



「うわぁー、綺麗ー」

「でしょ」



果てしなく広がる砂浜に七色に光る海。

波に揺られて揺らめく光に散らばる白い雪。

その光景は幻想的で、思わずうっとりするほどだった。



「こっちまでおいで」



手招きした後、私に向かって伸ばされた手。

この雰囲気にのまれたのかな。

私はそっと彼の指に自分の指を絡めた。



「気を付けて歩いて」



私を気遣いながら、先に進んでいく彼の背中を眺めながら歩いていく。


柔らかい砂の粒子に黒いブーツは埋まりながらは抜け、それの繰り返しで砂塗れ。


ふぅ。彼に支えられながら歩くものの体力使うわ。


程よく歩いたところで、波打ち際まで近づいていた。

ひとたび潮風が吹くと身震いをさせるくらい。


だから誰もいないのかも。


そんなことを思いながら私が寒さに身を縮こませていると、それに気付いたのか彼は立ち止まって、



「何してるの?」



再び手を離すと、今度は腰にまわしてきた。





< 4 / 26 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop