キミサガシ

prologue 鶴山庵の、ある一日に

2000年、8月15日


南雪華は京都五花街の1つ、上七軒にあるお茶屋兼置屋の鶴山庵から、『ゆき鶴』としてお店出しをした。

仕込み期間は約1年。

150程しかない背に、真ん丸でクリクリとした、少し垂れぎみな愛らしい目。
すっと通った綺麗な鼻筋。ちいさく形の良い唇。この世界にくるべきして来たような容姿を兼ね備えている。

日本舞踊を得意とする、はんなりとした舞妓さん。

お母さんは『鶴桃』、お姉さんは芸妓『ゆき桃』。

2人とも、上七軒トップの芸妓さんのお姉さん。

『ゆき鶴、お気張りやす。』

「へえ、おおきに姉さん」

ゆき桃のようなトップ芸妓の妹…周囲の期待も、桁違いだった。

お茶屋を巡る度に言われる、『姉さんみたいになれるようにお気張りやす。』という声。

シャッターを切られる音。

上七軒の暑い暑い夏に、華やいだ雰囲気が漂う。

姉さんに付いてお茶屋さんに挨拶巡り、お座敷巡り。

合計20キロもある着物を着て、慣れない高枕で眠るこの生活は、舞妓デビューしたてのゆき鶴には少々応えた。慣れるまでの1週間、あまりの疲労にご飯も喉を通らない、所謂夏バテというものを人生で初めて経験した。

それでも、舞妓さんだとしても、プロはプロ。

お座敷を回る時も、お茶屋さんへ挨拶へ行く時も、常に笑顔を保ち続ける。

簪が揺れる音、お茶屋さんから聞こえる風鈴の音。舞と共に響く三味線の音。夏の暑い夜だとしても、彼女が姿を現すとその暑さは何処へやら、全感覚がゆき鶴に向く。

その年の暮れには、ゆき鶴は上七軒人気トップの舞妓さんへと成長した。

いつもお座敷にひっぱりだこ。回りきれずに挨拶だけすることもしばしば。どれほど忙しくても、芸事のお稽古はきちんと務めなければ。おそらくこの頃から、色々と歯車が狂って行っていたのかもしれない。

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