5分で読める ショートショート ホラー・SF編 (全4話)
死体を隠せ!
死体を目の前にして、ヒロトは呆然としていた。
真昼の温かな日差しが、死体を照らしている。
「そんな……、殺すつもりなんて、なかったのに……」
がっくりとひざをついてうつむくヒロト。
でも、いつまでもこうしてなんていられない。
「こうなったからには、仕方ないわ。
さあ、この死体を隠しましょう」
しばらく力の抜けた顔をしていたヒロトだったが、
ようやく腹をくくったらしい。
テーブルにあった車のキーをつかんで立ち上がった。
「捨てるなら、海か、山か……」
「海がいいんじゃない?
ほら、ドラム缶に死体を入れて、コンクリートを流しこんで、
固めて捨ててしまえば……」
しっかりしているつもりだったけれど、わたしもだいぶ混乱していたらしい。
ドラム缶を捨てるためには、船でずっと沖合に出なければいけないだろう。
もちろん、わたしたちは船なんて持っていない。
「……山、だな。
大丈夫だ、深く埋めれば、だれにもばれない……」
そう言って、ヒロトは部屋を出て行った。
きっと、死体を埋めるための道具を買いに行ったのだろう。
しばらくしてヒロトは、青いビニールシートと、
大きなシャベル、ロープを買ってきた。
そして、丁寧に死体をビニールシートにくるむと、
ロープで巻いて、固定した。
ヒロトは夜になるまで、地図でどの山に捨てるか計画を練っていたようだった。
ヒロトは地理についてとても詳しいから、きっと見つからない山を選んだのだろう。
そして、真夜中。
このマンションには、防犯カメラがいくつか設置してある。
それを避けるために、ヒロトはベランダの柵をうまく使い、
ロープでとなりの空き地にゆっくりと死体を下ろしていった。
「ここが二階でよかった……」
わたしは思わずつぶやいた。
わたしは夜景のきれいな上の階に住みたいと言っていたのだが、
ヒロトは買い物に行きやすく、荷物の運搬もしやすい下の階がいいと言ったのだ。
その選択は正解だった。
死体を下ろし終わると、ヒロトは空き地に車をもってきた。
後部座席を倒し、死体と荷物を入れ始める。
「ちくしょう、狭いな」
「だから、軽自動車じゃなくて、普通車を買おうって言ったのに」
言ってから、気づく。
こんな時に言う文句じゃないだろう。
こういうところ、空気が読めないのよねと反省する。
ヒロトは四苦八苦しながら死体と荷物をつめこみ、車を山へ向かって発進させた。
山奥に着き、ヒロトはさっそく穴を掘り始めた。
深く、深く穴を掘り下げていくのを、わたしはじっと見つめていた。
しばらくすると、そうとうな深さの穴ができた。
ヒロトはビニールシートから死体をとり出し、じっとその顔をみつめた。
「ごめん、ごめんな。許してくれ」
死体の前にひざまずき、ヒロトは泣き出してしまった。
その背中に向かい、わたしは優しく声をかけた。
「いいの。
口論になったのは、わたしがきっかけだもの。
まあ、まさか殺されるとは思わなかったけれど……」
そう、この死体はわたしの死体。
ヒロトに首を絞められたことは覚えている。
そこで記憶が途切れ、気がついたら、わたしは幽霊となっていたのだ。
幽霊だから、ヒロトに触れられないし、わたしが何を言ってもヒロトには聞こえない。
それでも、わたしは幸せだ。
これで、愛する人とずっと一緒にいられるのだから。
一生、あなたに憑(つ)いていきます。
完
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