5分で読める ショートショート ホラー・SF編 (全4話)
演劇鑑賞会
今日は、小学生がわたしたちの演劇を見に来る日だ。
わたしは、舞台は生で見てもらうのが一番だと思っている。
映像ではカメラワークや音響に限界があるからだ。
生ならではの迫力を味わってほしい。
今日の劇は、高校生の青春を描いたものだ。
田中(たなか)香織(かおり)と田中(たなか)加央里(かおり)。
前者は社交的で、後者は内向的なふたりの少女。
それが、同姓同名のためにとある事件に巻きこまれて……。
というのがあらすじだ。
「さあ、みんな。精一杯頑張ろう!」
リーダーであるわたしの呼びかけに、みんながこたえ、舞台の幕が上がった。
舞台は順調に進んでいった。
「そんな、じゃあ、あのラブレターは、わたし宛てじゃなくて、加央里へのだっていうの?」
一方で恋愛に対して香織が悩めば……。
「ねえ、加央里。
もう勝也(かつや)くんに話しかけないでくれる?
っていうか、あんたみたいな、クラスでぼっちでいるやつに、
生きる価値あると思ってんの?」
他方で、人間関係の難しさを加央里が味わい、涙する。
主人公ふたりはその他の登場人物ともからみあい、話はどんどん加速していく。
「わたし、もう、こんな気持ちじゃあ、走れない。
……陸上部、辞めます」
部活動での挫折(ざせつ)。
「わたしさ、頭悪いし、要領もよくない。
だから、分からないんだ。わたしに、どんな職が向いてるのか」
将来の進路への不安。
わたしたちは、悩みある高校生を精一杯演じ続け、
二時間後、無事舞台は終了した。
拍手がわき起こる中、わたしたちはもう一度全員舞台に上がり、おじぎをした。
この瞬間が、最高に気持ちいい。
「では、この舞台を見た感想を言ってもらいます。
クラスナンバーB―7。
どう思いましたか?」
先生に指された男の子が答える。
「氏名は不要だと思いました。
クラスナンバーや、国民管理ナンバーを使用すれば、
氏名による勘違いなどなくなります」
先生は大きくうなずいた。
続いて、先生にA―12と呼ばれた生徒が感想を述べる。
「恋愛というものに感情を大きく動かされるのは、
時間の無駄だと思いました。
そんなことがないように、
遺伝子マッチングによるパートナー決定システムは必要不可欠だと思いました」
生徒たちは次々意見を述べていく。
「人間関係や性格の問題で
作業の効率が落ちないように、
感情コントロール手術はするべきだと思いました」
「部活や進路に悩んでいて、たいへんだと思いました。
今は、適性検査による職業決定システムがあって、よかったです」
意見交換は十五分ほど続いた。
こうして、演劇鑑賞会は大成功で幕を下ろしたのだった。
「やりましたね、リーダー」
「うん、みんなも、よくやってくれたね!」
わたしたちはハイタッチをかわす。
みんなは満足気に笑顔を浮かべていた。
しかし、この充実感や、笑顔すら、わたしに、
……いや、わたしたち全員にプログラムされた感情なのだろう。
わたしたち演劇ロボットは、
二百年前の人間をもとにつくられているのだから。
完