妹に婚約者を奪われた私は、呪われた忌子王子様の元へ

朝食

 テーブルにはポタージュスープ、卵料理、ベーコン、野菜のラペ、果物が並ぶ。
 朝食の席で、ユリウスが本日の予定を告げる。

「今日は村の方へ見回りに行って来る」
「見回りですか」
「そうだ、よかったらティアも来る?未来の領主夫人なのだし、村を見ておくのもいいだろう」
「連れて行って頂けるのですか?」
「勿論、ティアが望むなら。それに視察をしたくて、予定より早く王都を立ったと聞いていたしね」
「そ、そうでしたわ」

 公爵家の屋敷から逃げ出したくて、この地へ来たと言えず仕舞いなのが心苦しく、視線を落とす。
 しかしティアリーゼがこのミルディンという地に、関心があるのは本心である。

 朝食を食べ終えてから一旦私室に戻ると、村に行くための装いに着替え、外套を羽織る。

(こんなにもすぐに、見回りに連れて行って下さるなんて思わなかったわ……)

 私室を出てすぐのところで、既に準備を終えていたユリウスがティアリーゼを待っていてくれていた。

「お待たせ致しました」
「では、行こうか」
「はい」

 厩舎へ向かう途中、ティアリーゼは前日からの疑問をユリウスに問うてみた。

「そういえば、使用人だと絶対領域とおっしゃっていましたが、そのような装いの者は見当たりませんが……」
「別に使用人全員に強要する訳ではない。特に年配の使用人に冷えは大敵だからな。僕はそこまで鬼畜ではないぞ」

(エマもターニャも年配ではないのだけれど?)

 ユリウスの返答に疑問を抱いたが、ターニャはティアリーゼが公爵家から連れて来たばかり。ターニャは兎も角として、元々この城で働くエマも二十歳前後の若い使用人である。

「エマは年配ではありませんよね?」
「僕にだって好みがある」
「え?」
「女性ならば誰でもいい程、節操なしではないということだ」

 エマはティアリーゼの目から見て、若いだけでなく確実に美人だと言い切れる。そして大抵の男性から、魅力的に写っていることだろう。

 そうなると、導き出される答えはただ一つだ。

「ユリウス様は、変わったご趣味なんですね」
「……」

 全く悪びれず、天使のような笑顔を向けるティアリーゼにユリウスは表情を硬直させる。
 そんな彼を見て、他の使用人が強要されていないと知りティアリーゼは胸を撫で下ろす。
 自分に絶対領域を強いてきたのは解せないが……。

(やっぱりユリウス様はわたしを揶揄っていただけで、人に嫌なことを押し付けない優しい領主様なのだわ)
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