妹に婚約者を奪われた私は、呪われた忌子王子様の元へ

十六歳②

 日が沈み、湯浴みを終えたティアリーゼは自分で身体や髪を乾かして、寝衣に着替えた。
 公爵家の令嬢なら、使用人に世話をして貰うのが当たり前のことでも、ティアリーゼは自分のみで行う。

 そして寝る前に一人お茶の時間を満喫しようと、厨房へと足を運んだ。
 花の絵付けがされた、お気に入りのガラス製ティーポットとカップを取り出す。厨房には誰もおらず、勿論ティアリーゼが自分でお茶を入れる。

 就寝前という時間帯を考慮して、質の良い睡眠が取れるようにと、ハーブティーを選んだ。

 お茶を飲みながら本を読んだり、編み物をしたり、就寝前のこの時間がティアリーゼは好きだ。香りが心身を癒してくれる。
 
 お茶の淹れ方は侍女に教わったこと。
 お茶の淹れ方以外にも、使用人達からは様々なことを習った。
 部屋の掃除もその一つだ。
 別棟の掃除をするティアリーゼを、ミランダは初めて目にした際に、まるで使用人のようだと満足げに笑った。
 その頃にはティアリーゼも、ミランダの顔色はあまり気にならなくなっていた。

 そして自分で出来ることを少しずつ増やしていくのを、ティアリーゼは純粋に楽しんでいる。


 本館には沢山の使用人がいる。それにも関わらず、ミランダはわざわざティアリーゼ付きの使用人を本館へと呼び寄せ、マリータの世話をさせることは少なくない。
 それらを踏まえてもしもの時のために、身の回りをある程度自分で出来るようにと、使用人達がティアリーゼに教えたのである。

 表立ってミランダに抗議すれば、解雇される恐れがある。
 現在、公爵家で働く使用人は、ミランダの息がかかった者が多い。だが表向きは気に掛けていない振りをしながら、内心ではティアリーゼを大切に思う者もいる。
 その者達は女主人の目がない所では口を揃えて「リドリス殿下とご結婚されるまでの辛抱です」とティアリーゼに何度も言い聞かせた。

 年頃となったティアリーゼとしては、前妻の娘が自分の視界に入るのが辛いといった、ミランダの心情も理解出来るようになった。

 それに亡くなってしまったティアリーゼの母の代わりに、公爵家の跡取りを産んでくれる可能性のある現在の妻を大切にするのは当然だ。

 身体が弱かったであろう母に、何人も子を産ませるのは酷だ。跡取りとは別に、政略の駒として嫁がせるため可能な限り多く、女児の出産を要求する貴族男性もいる。
 それこそ配偶者やその子供を、道具のように扱っているように思えてならない。

 成長するにつれ、少しずつ自分や周りの状況が把握出来るようになっていた。

 そして自分が別棟で暮らし、ミランダ達の視界に入りさえしなければ、公爵家は平和だ。
 幸いティアリーゼは別棟での静かな暮らしも、お茶を淹れたり掃除をするといった日常も気に入っている。
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