妹に婚約者を奪われた私は、呪われた忌子王子様の元へ

夜会②

 ティアリーゼはすぐに踵を返した。

 分かっていた、リドリスとマリータが思い合っているなんて。
 分かっていた、これは二人の関係に限った話ではない。
 自分は産まれてから何も求めてはいけない。
 求めたとしても、大切な物は全て失ってしまう。
 家族の温もりも、母も、そして今度は婚約者。
 分かっていた筈なのに、事実を突き付けられると、こんなにも胸が切り裂かれそうになるのか。

 膝に力が入らず、歩くのに必死だった。ようやく会場に戻ると、壁に寄りかかって身体を支えた。
 眩すぎる会場の輝きに、目が眩みそうになりながら、眼前に広がる夜会の光景を視界に映す。


 この時のティアリーゼは知る由もなかったが、庭園でのリドリスとマリータの様子を目撃した者は複数人存在する。
 王子が夜会時に婚約者ではない女性を庭園に連れ出したあって、当然のようにその好奇心で、こっそりと覗きに行った者達がいたそうだ。

 夜会で会場にいる筈の二人が、同時刻に姿が見えなかっただけで、噂を立てられてしまうのが貴族社会。真実はどうであれ、僅かな油断で直ぐに噂が広まってしまう程、貴族間の噂やスキャンダルを好む人々が数多くいる。

 その当事者が王族ともなると、尚更だ。
 テラスに向かうリドリスとマリータの二人を目にしただけで、誰もが同じ考に至っていた。

 ──王子と思い合っているのは婚約者であるティアリーゼではなく、妹の方なのだと。
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