甘い甘い神様の溺愛は、ときどき怖くて、いじらしい。

第一話 美しい妹と、おちこぼれの姉。

  特別な異能を生まれ持った、愛らしいお姫様のような妹と。
 異能も愛嬌もゼロの落ちこぼれで、真面目だけが取り柄な姉。
 
 そんな姉妹がとある名家に生まれたとして、どちらが親から愛されるかなんて──1+1よりも簡単な問題だ。
 
「鈴蘭!! おいッ鈴蘭はどこにいる!?」
「……はい、お父様。ただ今参ります」
 
 鈴蘭。
 それが凡人の姉──つまり私の名前だ。
 
 屋敷の北隅にある自室から出て早足で廊下を進み、父の居室まで急ぐ。
 季節は冬。先日雪が降ったばかりだ。
 古めかしい屋敷の中では吐く息も白い。
 到着して膝をつき、襖を開けようとしたところ、一センチ開けた隙間から鬼のような睨み目が見えた。
 圧力すら感じるほどの、憎悪の視線。
 恐る恐る、ゆっくりと襖を開けきる。
 
「どういうつもりだ」
「……どういう、とは」
「とぼける気か。本当に可愛げのない」
 
 唸るように怒られる。無様に体が震えないよう、心を無にして身を固める。
 そんな態度を反抗と受けとったのか、父が激昂した。
 
「姫華の部屋の前の窓を割ったそうだな!? この寒い季節に!! おまけに花瓶も割られて廊下は水浸しになっていたとか。なぜ我らが“菓子乃”一族の血を引くお前がそれほど恥知らずに育ったのかまったく理解出来ん!!」
「……」
「どうせ姫華が新しい着物を着ているのが羨ましかったのだろうが。姫華は尊い身なのだからそれ相応のものを着て当然だろう!? ましてや姫華はまもなく十五歳、年頃だ。恨むなと何度言えばわかる!?」
 
 なにもかもが冤罪で、証拠もないのに糾弾される。
 恨んでもいないし、危害を加えることなどしていない。
 ちなみに私も今年で十六歳になる「年頃の娘」だが……それも父には関係ないのだろう。
 
 またこの手の話かと思った私は、父の話を情報としては頭に入れつつ、心をシャットアウトすることにした。
 
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