君がくれた無垢な愛を僕は今日も抱きしめる
7.祈り
その日は朝からどんよりとした曇り空で、今にも雨が降りそうだった。

「今日亮平さん一緒に帰れるかな?」

そう思いメッセージを送っておく。
傘も持って行かなくちゃ、雨のとき車椅子はどうなるんだろうなどと考えながら家を出る。

早番の陽茉莉はいつもより早く家を出て、駅までの道を歩いていた。目の前には登校中の小学生の列。自分も小学生の頃、同じようにこの通学路を歩いたなあとぼんやりと眺める。

やがて押しボタン式の横断歩道で小学生の列は止まった。車側の信号が赤に変わり、歩行者用が青になる。

小学生の集団が一斉に渡ろうとしたその時。
猛スピードで突っ込んできた車に気づいた小学生たちが悲鳴を上げながら逃げる。

ガシャーン

大きな音と共に車がガードレールにぶつかった。
けれど――。

「えっ、危ないっ!」

止まることを知らないかのように車はものすごい勢いでバックし他の車にぶつかる。派手な音を立てたにも関わらず、その車はまた直進した。明らかに運転手がパニックになっている。

陽茉莉の目の前には逃げ遅れてどうしたらいいかわからず固まっている一人の男の子。それが弟の陽太と重なって見えた。

「陽くん!」

陽茉莉は走る。必死に手を伸ばして男の子を突き飛ばした。直後――。

ガシャーン

再びものすごい音がして、ようやく暴走車は止まった。

子供たちの悲鳴と泣き声が交錯する。
辺りは騒然となり、異様な空気に包まれた。

割れた車のライトの破片が道路に散らばる。
ガードレールは威力を物語るかのように大きく歪んでいる。
車は前後に大きなへこみ。

幸いなことに子供たちは誰も大きなケガをしていない。

その中で、陽茉莉だけがその場に倒れていた。
ピクリとも動かない。

「救急車! 誰か救急車を呼んで!」

誰かもわからないが叫び声がした。

雲が流れる。
風が強くなる。

遠くからかすかに雨のにおいがした。
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