恋は千年、愛は万年。




暫くすると隣から視線を感じ、顔をそちらへ動かすと、涼しげな黒髪の美丈夫が座っていた。


黒髪なのに、トシくんとはまた違う大人感があった。

静かな雰囲気を持つその人からは、寡黙さが伝わってくる。  


へぇ、ここ美丈夫多いね?何人居るの?

目があって、そのまま見つめ合う。


5秒、10秒、15秒。


これは何かの訓練なの?

それとも、先に目をそらしたら負けみたいな
遊びなの?


一向に始まらない会話に、しょうがなく僕から口を切った。


『あの、どうかされました?』


声をかけると、ハッとした彼は口に手を当てた後、頬をかいた。


「…いや、美人だなと思い。
 俺は斎藤一という、よろしく」


美丈夫な上に声までいいなんて、最高か。


『よろしくお願いします』


寡黙かと思ったら、口説きまでしてくれた斎藤さん。

いや、初対面でソレは勘違いするって。

僕、男なんだよね?女って思われてないよね?

天然たらし?いや、純粋なのだろうか。

斎藤一、確かソウ君に並ぶ剣士なんだっけ。

強いんだなぁ。

まぁ、背も高いし、筋肉もついてそうだし妥当か。


会話を続けようとしたら。


「アキさん、余所見してないでコレも食べて下さい」


顎を掴まれ、グリンと顔をソウ君の方に戻された。  


『…!?』


痛い痛い。

ソウ君ってば、時々暴力的なんだから。

ソウ君は黒い笑みを浮かべていた。

それでもって差し出されたのは、美味しそうな蜜柑。

丁寧に剥かれてあり、一房をくれようとしていた。

甘味も用意されてるんだなんて豪華なこと。


『ソウ君甘いもの好きでしょ?
 自分で食べたらいいのに』


意地悪のつもりで好きなものまでくれようなんて、ソウ君はやっぱり良い子なんだな。

ふっ、と笑う僕にソウ君は僕の口元へ運ぶ手を止めた。


「…何でそんな覚えてるんですか」


いいから貰ってくださいよ、と何処か悔しそうな顔をしたソウ君は僕の口に無理矢理蜜柑を突っ込んだ。


『!』  


美味しいけど、強引だなぁ。

ソウ君からの餌付けに気を取られて、隣から感じる斎藤さんの視線に気付かなかった。



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