「あなたが運命の人を見つける前に、思い出をください」と一夜を共にした翌朝、私が彼の番なことが判明しました ~白銀の狼公爵の、一途すぎる溺愛~
 番は、世界のどこにいるのかわからない。
 近づけばすぐにわかるのだが……。流石に、別の大陸や他国となると、嗅覚では追いきれない。
 番に出会えた場合は一直線となるが、番が見つからないまま、他の異性と暮らしていく獣人もいる。
 むしろ、番には出会えないパターンのほうが多いとされているぐらいだ。
 なんせ、番がいるのは「世界のどこか」なのだから。

 嗅覚さえ発現すれば、近くに番がいるのかどうかが判明する。
 近くにいればそれでよし。いなければいないで、貴族として、番以外の者との婚姻を進めることも考える。
 爵位を持つ獣人の多くは、そんなやり方で家を繋げている。
 もちろん、婚姻後に番を見つけてしまうこともあるが、相手が獣人である以上、結婚相手もその可能性を理解して婚姻を結んでいる。
 結婚相手と愛する人が別。子供がいない場合は離縁。そんなリスクを背負いながらも、家を存続させていく。


 しかし、グレンは18歳となった今も、番を見つける嗅覚が働いていない。
 そのため、まだ婚約者を決められずにいるのだ。
 婚約者を決めたあとになって、すぐ近くに番がいました、なんてことが起きるのを防ぐためだった。
 稀だが、獣人の中には嗅覚が発現しないままの者もいる。
 グレンもそのパターンなのではないか、このままでは婚姻を結べないまま時だけが経つのでは、と一部の者たちにささやかれていた。
 ならば弟のクラークに家を継がせればいいのだが、15歳のクラークもいまだ嗅覚なしである。
 
 アルバーン公爵家周辺の人々は、誰が公爵家を継ぐのか、家は存続できるのかと、ひそひそと話していた。
 そんな中、グレンの幼馴染のルイスは、彼がまだ番を見分けられないことに、安堵していた。
 グレンと同い年だから、ルイスも18歳だ。
 彼女は、幼いころからグレンに片思いをしている。
 いつから好きだったのかは、正確には覚えていないが。年齢が二桁に届くころには、彼への恋心を自覚していた。
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