「あなたが運命の人を見つける前に、思い出をください」と一夜を共にした翌朝、私が彼の番なことが判明しました ~白銀の狼公爵の、一途すぎる溺愛~
 グレンの私室で、二人は揃ってベッドに乗り上げていた。
 グレンは後ろからルイスを抱え込むようにして、大きくなってきた彼女のお腹に触れている。
 結婚後、二人は別邸へと移り住む予定だったのだが、ルイスの妊娠がわかったため、落ち着くまでは本邸を使うことになっていた。
 彼の温もりを感じながらも、ルイスは自分の手をそっと彼の手の甲に重ねた。

「……グレン様」
「ん?」
「グレン様って、本当に私のことが好きだったんですね」
「ど、どうした、急に。好きなのは、まあ、そうだけど」

 事実ではあるが、突然そんなことを言われたものだから、グレンがにわかに頬を染める。

「番だとわかる前に、私に想いを伝えることもなかったし、嘘をついて早くに婚約させることもなかった。……色々あった今なら、本当に愛されてたんだなあって、わかる気がして」
「……きみを、傷つけたくなかったからな」

 グレンがルイスに想いを伝えなかったのも、想い人を手に入れるための嘘をつかなかったのも、愛する人を傷つけたくなかったから。
 他の女性が番だとわかったとき、ルイスを放り出したくなかったから。
 グレンは誠実で、愛情深い。ルイスにも、そのことがよく伝わっていた。

「……あなたの番で、本当によかった」
「俺も、きみでよかったと心から思うよ」

 しっとりとした夜に、二人は笑いあう。

 あなたが運命の人を見つける前に、思い出をください。
 そう懇願して一夜をともにした初恋の二人が「運命の番」だったなんて、奇跡のようなお話だ。
 けれど、たしかにここに存在する現実でもある。

 グレンの腕の中で、ルイスがもぞもぞと向きを変える。
 グレンはてっきり、彼女が正面から身体を預けてくれるものだと思ったが、ルイスの手はグレンの白い耳に伸びていく。
 両の耳に触れると、ルイスは「ふわふわ~」と言いながら緑の瞳をとろけさせた。

「この耳も、もう触れないかと思ってました。それが、まさかの触り放題でびっくりです。ふわふわのもふもふで最高です」
「耳が本命みたいな言い方するなあ……」
「ふふ」
「否定してくれ」

 二人が仲良くなったきっかけは、グレンのこの狼のような耳だ。
 旦那様となったグレンの耳触り放題権を手に入れたルイスは、今日も、上機嫌に彼の耳を堪能する。
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