緑の手を持つ花屋の私と、茶色の手を持つ騎士団長
 もし朝食を共にするとわかっていたら、残り物ではなく黄金に輝くコンゾミーを前日から作っておいたのに、と後悔していると、食事を終えたジルさんがカトラリーを置いた。

「この量の朝食を食べたのは初めてだったが、どれも美味くて全部食べてしまった」

 色々考えていたけれど、どうやら心配無用だったようだ。ジルさんのお皿に盛った料理は綺麗サッパリ無くなっていた。

「特にヒューナーズッペはまた食べたいほど美味かった。アンの料理はどれも美味いな」

「え、そうですか? えへへ。嬉しいです」

 こんな家庭料理を気に入ってくれるとは思わなかった。昨日の残りでもジルさんは全く気にしない人らしい。

(ああ、そうか。騎士団だから遠征に行くだろうし、そこで一流シェフの料理なんて食べられないもんね)

 ジルさんは高位貴族の公爵様なのに、私が作ったものでも喜んで食べてくれる理由に思い至り、ようやく合点がいった。

「じゃあ、食器を片付けますので、温室で待っていて貰えますか?」

「む。手伝わなくていいのか?」

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