緑の手を持つ花屋の私と、茶色の手を持つ騎士団長
 驚異の速さで建物の最上階まで到達したジギスヴァルトは、高級で固そうな扉を強烈な蹴りで粉砕する。

「────アン……っ!!」

 破壊した扉の向こうに、驚いた顔でこちらを見ている若い男と、その先にぐったりとしているアンネリーエの姿が目に飛び込んできた。

 真っ青な顔で、震えながら横たわるアンネリーエの尋常ではない様子に、ジギスヴァルトは怒りで目の前が真っ赤になる。

「……な、何故貴方がっ?! どうしてここに──がはっ!!」

 ここ「クライスラー商会」の会頭であるフライタークがものすごい勢いで吹き飛んだ。フライタークに喋る間を与えず、ジギスヴァルトが殴り飛ばしたのだ。

「……っ、ごふっ!! ……ぐ、ぐぁあ……っ」

 フライタークの口から出た大量の血が、床を真っ赤に染め上げる。

 ジギスヴァルトに殴られ、立派な作りの机に叩きつけられたあおりを受けた部屋の中は書類が散乱し、見るも無残な状態だ。
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