まじないの召喚師2 ー鬼の子と五大名家ー


隙をついて床下に滑り込み、音を立てずに匍匐前進。

近くを人が通れば息を潜め、離れれば移動を再開する。



「ん?」



「どうした?」



「今、何か気配が……」



「うわっ! 蛾が!」



「おどかすなよ」



「蛾は無理っ!」



「刀振り回すな!」



勘の良さそうな者もいたが、近くの騒ぎに意識を割いた。

ある部屋では。



「警備とかつまんねぇ」



「お前さん、この家の者じゃねえな」



「ええ、まあ」



「お偉いさんに振り回されんのも大変だねえ」



「ははっ、お互いさまです」



「どうだい、一杯」



「仕事中ですよ」



「いいんだよ。ちょっとくらい」



「じゃあ、いただきます」



「お前らも来いよ!」



「いいのか?」



「ごちっす!」



周囲を巻き込んだ酒盛りが始まった。


その後も、我々は意識されることもなく。

大広間の真下に来た。

ここを抜けると、大きめの池を備える庭がある。

牢屋らしき建物は見えない。

先頭を進むヨモギ君が止まった。



「…………においがきえた」



「何?」



「みずのにおいがつよい。これいじょうはおえない」



先輩が小さく舌打ちした。

しょんぼりするヨモギ君の頭を、健闘を讃えるようになでる。



「大丈夫だ。匂いを消すってことは、近くにいるってことだろう。よく頑張ったな」



ヨモギ君は力強く頷いた。



「ツクヨミ」



「私の出番というわけだね」



先輩のご指名に微笑む。

その時、上の人たちの会話が聞こえた。

< 45 / 90 >

この作品をシェア

pagetop