まじないの召喚師2 ー鬼の子と五大名家ー


「ご主人様、これを」



イカネさんに新しいお札を渡される。

これを召喚しろということだ。


イカネさんも、先輩のすること分かってるの?

私だけ取り残されているみたいで、寂しいぞ。

でも、イカネさんのすることなら最悪な事態にはならないだろう。


お札に霊力を込めて、召喚する。



「急急如律令!」



お札が光り、形を変え、現れた。

身長20センチくらいの青年が、背中から生やした蛾のような羽を動かして飛んでいる。

イカネさん、オオクニヌシ、アメノウズメが普通の人だったから、人形は予想外。



「スクナヒコナ。この敷地内、全てのひとの修繕をお願いします」



「かしこまりました。オモイカネ様」



修繕って、言い方よ。


しかし、間違ってはいない。

スクナヒコナが屋根の上まで高度を上げ、瓢箪の水を雨のように降らせる。

その雫を浴びた怪我人達の体が光り、変化はすぐに訪れた。



「腕が生えた!」



「動かなかった足が動くぞ!」



「腹が痛くなくなった!」



「呼吸がしやすい!」



大怪我した当人が、いち早く自身の身体の変化に気づく。



「おい見ろ! 犠牲になったやつらの体が……!」



誰かが呆然と呟き、その驚きは一気に広がる。



「頭が潰れてたのに!」



「こいつ、千切れた頭と胴体がつながりやがった!」



離れていた部位が生えたり、ぺたんこのミンチだったものが人の形に戻ったり。

およそ人の理解の範疇を超えていた。

神様ってすごいなぁ………。



「人も鬼も、区別なく。これで全員治せましたよ」



「よくやりましたね」



「はっ!」



スクナヒコナは恭しく礼をとった。



「おい、返事をしろ!」



元ミンチだった人に声をかける人がいる。

しかし、それは目を覚さない。

寝ているだけのように見えるのに。



「諦めろ、こいつは死んだんだ。身体が戻っただけでもよかったじゃないか」

「今度の飲み会、奢ってくれるって約束しただろ!」



大怪我が治った歓喜も束の間。

途端に重たい空気になる。



『彼の言う通り。あれは、身体だけ治したに過ぎない。魂は黄泉路を渡っているのだから、目を覚ますはずもない。ただの抜け殻』



『植物状態みたいなものですね』



私はなるほどと頷く。

肉体の操作権がツクヨミノミコトに移る。



「さあ、ここからは私の仕事だ」



空に手を翳すと、月の光が天使の梯子のようにそれらに降り注ぎ、すうっと消える。

手を下ろすと、身体を返された。



『これで終わり?』



『これで終わり』



思ったより簡単だった。

大惨事にならなくて、ほっとする。



『あははっ。すぐにわかるよ』



楽しそうに笑い出すツクヨミノミコトの前で、月光を浴びた、植物状態のひと達が目を覚ます。



「………ん?」



「………あれ?」



起き上がり、自身の身体を触り、無事を確かめる。

死んだはずの者が動き出したのだ。

動揺が広がる。



「生き返った、だと………?」



ある人が、隣の人の両肩をつかみ、揺さぶる。



「俺が誰がわかるか!?」



「………何言ってんだよ?」



「飲みの約束忘れたか?」



「次の休みだろ、覚えてるよ。お前の失恋パーティ、可愛い女の子沢山用意するって……」



「友よ!」



わあっと歓声があがる。



「奇跡だ………」



「神よっ……!」



ツクヨミノミコトは、黄泉路を渡ったひと達を連れ戻したのだ。


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