転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!
第一章 空白の一日
1
嫌な予感はしていたのだ。一人暮らしをしているアパートの最寄り駅に、降り立った時から。
(尾けられてる?)
アパートへの道のりを急ぐうち、その予感は確信に変わっていった。一人の男が、一定の間隔を保って追ってくる。そしてその間隔は、微妙に少しずつ縮まってきていた。
背筋がひやりとするのを、抑えきれない。元々利用者の少ない、郊外の駅だ。深夜近くなった今、人通りは皆無に等しかった。そういえば、不審な男が出没しているというポスターを見かけたな、と今頃思い出す。
(やっぱり、勇気を出して断るんだった)
先輩女性社員の顔が浮かぶ。理不尽に残業を押しつけられるのは、今日で連続三日目だった。今日こそは拒否しようと心に誓っていたのに、彼女の顔を見ると何も言えなくなってしまったのだ。結果が、この時間の帰宅である。
歩道橋にさしかかる。ここを越えれば、アパートは目の前だ。懸命に階段を上り、反対側へと走る。だが、男は突如、速度を上げ始めた。カンカン、という靴音が恐ろしい。
(早く、渡りきらなきゃ……!)
全速力で、どうにか反対側へとたどり着く。そして階段を駆け下りようとした、その時だった。突如視界が、ぐらりと揺れた。重心を失った体が、転げ落ちていくのがわかる。
(嘘、死ぬの、こんな場所で……!)
目の前が暗くなっていく。最後に私の脳裏に浮かんだのは、こんな思いだった。
(生まれ変わったら、今度こそちゃんと自己主張する! 絶対……!)
※※※
うっすら目を開けると、まず目に飛びこんできたのはシャンデリアだった。高い天井から、まばゆい光を振りまいている。
(あれ、私……?)
何だか、体が痛む。そこで初めて、自分が冷たい木の床に横たわっているのに気付いた。どうやら、廊下らしい。目の前には、扉があった。使われていない客間だ。
(失神していたの? こんな場所で……)
取りあえず体を起こしたその時、不意に背後から声がした。
「モニク嬢?」
(――そうだ。私はモニク・ド・サリアン、二十三歳。モルフォア王国の伯爵令嬢ではないか……)
気を失っている間に、前世の記憶を取り戻したらしい。そう、私は、『倉本忍』という日本のOLだったのだ。二十五歳の年に、残業の帰り道に痴漢に追いかけられ、歩道橋の階段から転落死した……。
「モニク嬢。こんな所で、どうされました?」
再びの呼びかけに、私はようやく振り向いた。心配そうに私をのぞき込むのは、意外な人物だった。
(尾けられてる?)
アパートへの道のりを急ぐうち、その予感は確信に変わっていった。一人の男が、一定の間隔を保って追ってくる。そしてその間隔は、微妙に少しずつ縮まってきていた。
背筋がひやりとするのを、抑えきれない。元々利用者の少ない、郊外の駅だ。深夜近くなった今、人通りは皆無に等しかった。そういえば、不審な男が出没しているというポスターを見かけたな、と今頃思い出す。
(やっぱり、勇気を出して断るんだった)
先輩女性社員の顔が浮かぶ。理不尽に残業を押しつけられるのは、今日で連続三日目だった。今日こそは拒否しようと心に誓っていたのに、彼女の顔を見ると何も言えなくなってしまったのだ。結果が、この時間の帰宅である。
歩道橋にさしかかる。ここを越えれば、アパートは目の前だ。懸命に階段を上り、反対側へと走る。だが、男は突如、速度を上げ始めた。カンカン、という靴音が恐ろしい。
(早く、渡りきらなきゃ……!)
全速力で、どうにか反対側へとたどり着く。そして階段を駆け下りようとした、その時だった。突如視界が、ぐらりと揺れた。重心を失った体が、転げ落ちていくのがわかる。
(嘘、死ぬの、こんな場所で……!)
目の前が暗くなっていく。最後に私の脳裏に浮かんだのは、こんな思いだった。
(生まれ変わったら、今度こそちゃんと自己主張する! 絶対……!)
※※※
うっすら目を開けると、まず目に飛びこんできたのはシャンデリアだった。高い天井から、まばゆい光を振りまいている。
(あれ、私……?)
何だか、体が痛む。そこで初めて、自分が冷たい木の床に横たわっているのに気付いた。どうやら、廊下らしい。目の前には、扉があった。使われていない客間だ。
(失神していたの? こんな場所で……)
取りあえず体を起こしたその時、不意に背後から声がした。
「モニク嬢?」
(――そうだ。私はモニク・ド・サリアン、二十三歳。モルフォア王国の伯爵令嬢ではないか……)
気を失っている間に、前世の記憶を取り戻したらしい。そう、私は、『倉本忍』という日本のOLだったのだ。二十五歳の年に、残業の帰り道に痴漢に追いかけられ、歩道橋の階段から転落死した……。
「モニク嬢。こんな所で、どうされました?」
再びの呼びかけに、私はようやく振り向いた。心配そうに私をのぞき込むのは、意外な人物だった。
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