転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

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「ドニ、よく鑑賞する気になれるな。私は、とても無理だ。あの血まみれの品々の記憶が蘇る」



 マルク殿下は苦笑されたが、ドニ殿下はけろりとされていた。



「植物に、罪はありませんよ。私は、あのトピアリーたちが気に入りましてね。……是非、ご案内いただきたい。植物が本当にお好きな方の、ご令嬢に」



 ドニ殿下がチラと私をご覧になると、ローズは目をつり上げた。



「私は、植物観賞よりも狩りの方が、男らしいご趣味だと思いますわ! ね、マルク殿下。楽しみにしておりますわ、鷹狩り」



 ローズが、当てつけがましくマルク殿下に寄り添う。殿下は、ちょっと困ったような表情をされた。



「ドニ、私は先に帰るぞ」

「ええ、お気を付けて」



 ドニ殿下がそう答えられると、ローズとマルク殿下は、さっさと応接間を出て行ってしまった。私は仕方なく、ドニ殿下を中庭へお連れしたのだった。



 庭に到着すると、ドニ殿下はこんなことを言い出された。



「僕は、狩りも嫌いではありませんよ。今度の鷹狩りにも、参加する予定です」

「ローズの申したことなら、お聞き捨てくださいまし」



 私は焦ったが、殿下は大して気にされていないようだった。



「興味の無い女性が何を仰ろうが、どうでもよろしい。今、僕の脳裏を占めているのは、あなたのパートナーです。アルベール殿は、本当にあなたを誘われていないので?」

「――ええ」



 嘘をつくわけにもいかず、私は渋々頷いた。すると殿下は、間髪入れずに仰った。



「では、僕をパートナーにお選びいただきたい」

「それは……」



 王子殿下のお誘いに対して無礼だとわかってはいたが、私はかぶりを振った。



「申し訳ございません。どなたであろうと、アルベール様以外の男性を、パートナーに選ぶつもりは無いのです」



 ドニ殿下は、軽くため息をつかれると、トピアリーの方を向かれた。



「そう仰るだろうとは、予想していましたがね。しかし、あなたを選ばないのなら、アルベール殿は一体、どなたを誘われるおつもりでしょう?」

「――存じません」



 つい、ぶっきらぼうなお返事になってしまう。ドニ殿下は、私のそんな態度にお怒りになることもなく、熱心にトピアリーをご覧になっていた。そんな彼を見ているうちに、私はふと、こんな質問を思いついた。



「ドニ殿下。亡くなられた王妃殿下って、一体どんな方でしたの?」
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