転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

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「アルベール様も、黒髪ですわよね。しかも、その夜のアリバイが曖昧だとか」



 恥をかかされた仕返しか、ローズがチクリと言う。私は、カッとなった。



「だからガストンは、嘘をついているのよ。確かにあの夜、彼は私の部屋にいらしたわ」

「しかし、モニク嬢」



 ドニ殿下が、口を挟まれる。



「アルベール殿がパーティーの夜、会場を抜けておられた件は、まだ謎のままですよ」

「ほう、それは本当か?」



 マルク殿下が、険しい眼差しになる。ドニ殿下は、言いづらそうに続けられた。



「ええ。モニク嬢が、愛する人を疑いたくないというお気持ちは、わかります。でも、私も事実は曲げられませんので。どうですか、モニク嬢。アルベール殿に、そのことはお聞きになりましたか?」

「――いいえ」



 仕方なく、私はかぶりを振った。正直に話せば、アルベール様は何の目的でバール男爵をつけ回していたのかまで、話さざるを得なくなってしまう。否定するしかなかった。



「私が言うと、恋敵を陥れようとしていると思われそうで、言うべきか迷っていたのですが……。でも、その辺りを正確に語っていただかないことには、潔白とは言い切れないでしょう」



 全員が、沈黙する。それを破ったのは、マルク殿下だった。



「まあ、黒髪の男なんぞ、ごまんといますからね。それに、門番の証言もあやふやだ。彼、親の治療費が必要なのだとか? 金をもらって、嘘の証言をしている可能性もありますね。私は、彼の郷里に遣いをやろうと思います。そこで、詳しく話を聞き出しますよ」

「まあ、ありがとうございます」



 私は、ほっとしてお礼を述べた。ガストンが真実を打ち明けてくれれば、少なくともアンバー殺しの夜のアリバイは成立する……。



「さすが、兄上です。私には、思いつきもしませんでした」



 ドニ殿下が、感心したように頷かれる。



「モニク嬢を犯人と決めつけたような、同じ過ちを繰り返さないよう、慎重になっているだけだ……。それでは、そろそろおいとまするとしよう」



 マルク殿下は、立ち上がられた。すかさず、ローズも続く。



「お見送りいたしますわ」

「では、私はドニ殿下をお送りします」



 私も、席を立つ。だが、当然マルク殿下とご一緒に帰られるかと思いきや、ドニ殿下は意外なことを言い出された。



「その前に、また中庭を見せていただけませんか。あのトピアリーを、愛でたくてね」
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