転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!
11
「父上に……ジョゼフ五世陛下に、そのような女性はおりません。王妃殿下の他には、僕の母だけでした!」
ドニ殿下の口調は、激しかった。いつも温厚な殿下の突然の変化に、私は戸惑った。
「申し訳ありません……。国王陛下を、貶めるつもりは無かったのです。単純な好奇心だったのですが……、下世話なことを申し上げて、失礼いたしました」
ドニ殿下は、傍にあったトピアリーの枝を、ぐっと握りしめておられる。その手が小刻みに震えておられるのに、私は気付いた。
「申し訳ございませんでした」
もう一度謝罪すると、殿下の表情はようやく和らいだ。
「いえ、僕の方こそ、大きな声を出してしまって……。父上は誠実な男性だ、とわかっていただきたかったのです。妃殿下以外で愛されたのは、僕の母だけでした。父上は今でも、彼女の肖像を収めたロケットを、大切にお持ちです」
「……お母様も、ロケットをお持ちでしたわよね?」
殿下の態度が落ち着かれたことに安堵しながら、私は尋ねた。
「先日、見せていただきましたわよね。素敵な、べっ甲のロケット。もしや、陛下とおそろいですか?」
だが、ドニ殿下の表情は、なぜか再びこわばった。
「ええ、そうですよ。あいにく、今日は持参しておりませんが……」
私は、やや怪訝に思った。亡きお母上の形見なら、肌身離さず持ってらっしゃるものかと思っていたからだ。だが、これ以上追及して、また殿下のご機嫌を損ねるのはまずいだろう。私は、話題を変えることにした。
「失礼しましたわ。亡き親の思い出というのは、いくつになっても切ないものですわよね……。私にとっては、このトピアリーですわ。今度は、どんなデザインにしようかと、庭師と話し合っているところですの」
「ああ、新しいものを造られるのですね? それは楽しみだ」
ドニ殿下は、ふと気付いたように、触れていたトピアリーから手を離された。だがそのとたん、鮮血が飛び散った。あまりにも力強く、枝を握りしめておられたからだろう。殿下の掌は傷つき、そこから出血していたのだ。
「殿下!? 大丈夫で……」
思わず声をおかけしようとして、私はハッとした。ドニ殿下は、ご自身のお顔に跳ねた血を、無造作に拭われたのだ。
(――殿下のこの仕草を、私は見たことがある……!)
ドニ殿下の口調は、激しかった。いつも温厚な殿下の突然の変化に、私は戸惑った。
「申し訳ありません……。国王陛下を、貶めるつもりは無かったのです。単純な好奇心だったのですが……、下世話なことを申し上げて、失礼いたしました」
ドニ殿下は、傍にあったトピアリーの枝を、ぐっと握りしめておられる。その手が小刻みに震えておられるのに、私は気付いた。
「申し訳ございませんでした」
もう一度謝罪すると、殿下の表情はようやく和らいだ。
「いえ、僕の方こそ、大きな声を出してしまって……。父上は誠実な男性だ、とわかっていただきたかったのです。妃殿下以外で愛されたのは、僕の母だけでした。父上は今でも、彼女の肖像を収めたロケットを、大切にお持ちです」
「……お母様も、ロケットをお持ちでしたわよね?」
殿下の態度が落ち着かれたことに安堵しながら、私は尋ねた。
「先日、見せていただきましたわよね。素敵な、べっ甲のロケット。もしや、陛下とおそろいですか?」
だが、ドニ殿下の表情は、なぜか再びこわばった。
「ええ、そうですよ。あいにく、今日は持参しておりませんが……」
私は、やや怪訝に思った。亡きお母上の形見なら、肌身離さず持ってらっしゃるものかと思っていたからだ。だが、これ以上追及して、また殿下のご機嫌を損ねるのはまずいだろう。私は、話題を変えることにした。
「失礼しましたわ。亡き親の思い出というのは、いくつになっても切ないものですわよね……。私にとっては、このトピアリーですわ。今度は、どんなデザインにしようかと、庭師と話し合っているところですの」
「ああ、新しいものを造られるのですね? それは楽しみだ」
ドニ殿下は、ふと気付いたように、触れていたトピアリーから手を離された。だがそのとたん、鮮血が飛び散った。あまりにも力強く、枝を握りしめておられたからだろう。殿下の掌は傷つき、そこから出血していたのだ。
「殿下!? 大丈夫で……」
思わず声をおかけしようとして、私はハッとした。ドニ殿下は、ご自身のお顔に跳ねた血を、無造作に拭われたのだ。
(――殿下のこの仕草を、私は見たことがある……!)