転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

5

 ドニ殿下は、国王陛下に向かって、しれっと仰った。



「私は、このモニク嬢を妃に迎えたいと、望んでいるのです。とても控えめで、奥ゆかしい令嬢でしてね」



 気のせいではなく、斜め前から殺気を感じる。私は、極力そちらを見ないようにした。



「ふむ。気に入っておるのなら、いいのではないか?」



 陛下は、さして関心無さげに仰った。どうやら第二王子の嫁など、どうでもいいらしい。ありがとうございます、とドニ殿下はうやうやしく礼を述べられた。



「これで父上にお許しをいただけなかったら、どうしようかと思いましたよ。何せ、根気よくかき口説いて、ようやく今日に漕ぎ着けたのですから」



 殿下は微笑みながら、私の顔をのぞき込まれた。



「ねえ、モニク嬢。そうですよね?」

「ええ。殿下の情熱には、負けましたわ」



 ローズがやっていたのを思い出して、私は上目遣いでお答えした。アルベール様の視線が痛い。演技ですわよ、と私は心の中で絶叫した。



「さようか。ドニは、何事にも積極的で、良いことだな」



 陛下が、満足そうに頷かれる。まずい方面で積極的になってらっしゃいますわよ、と私は内心ぼやいた。一方ドニ殿下は、陛下のお言葉を得て、調子に乗られたようだった。



「強力な恋敵が、いたのですけれどね。でも私は、ライバルがいる方が燃えますので」



 言いながらドニ殿下は、意味ありげにアルベール様の方を見やった。アルベール様が、気色ばんだように、何かを言いかける。だが、そのお言葉は、国王陛下によってさえぎられた。



「おや、アルベール殿。そちらのご令嬢が、本日のパートナーか?」



 国王陛下は、真っ直ぐにエミールを見つめておられる。さすがのエミールも、顔に緊張を走らせたが、すぐに礼儀正しくご挨拶申し上げた。



「エミリーと申します。お目にかかれて、光栄でございます」

「エミリー、とな」



 アルベール様が、慌てたように補足される。



「陛下。こちらは、私の遠縁の娘にございます。普段は田舎暮らしで、一度王都へ遊びに来たいと、常々申しておりまして。良い機会と思い、連れて参りました」



 ほう、と陛下は興味深げにエミールを凝視された。



「いくつになる?」

「十八になります」



 おそるおそるといった様子で、エミールがお答えする。陛下は、黙り込まれた。私は、背中に冷や汗が伝うのを感じた。



(まさか、男だとバレた……!?)
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