転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

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 恐怖の沈黙が続く。それを破ったのは、ローズの甲高い声だった。



「まあ、陛下ったら。こんな若いご令嬢に、興味をお持ちですの? 孫のような年齢では、ございませんこと?」

「ローズ!!」



 私は、思わず立ち上がってローズを怒鳴りつけていた。国王陛下に向かって、何ということを申し上げるのか。第一、陛下はまだ五十歳。十八歳の孫がいらっしゃるお年ではないし……。いや、仮にそんなお年だったとしても、その発言は完全にアウトだ。周囲の貴族たちも、真っ青になっている。



「父上。ローズ嬢は、ジョークがお好きでしてね。真剣に取らないでいただけると……」

「その通りです。若く美しい女性に興味を惹かれるのは、男の性ですよ」



 マルク殿下とドニ殿下は、必死にその場を取りつくろおうとされている。私は、陛下とローズを見比べて、ただおろおろとしていた。



(どうしよう。陛下、確実に気分を害されたわよね……?)



 陛下は、しばらく沈黙されていたが、やがて静かに口を開かれた。



「そういう意味ではない。彼女によく似た女性を、昔知っていたのだ。私にとっては、実に懐かしい思い出だ」

「まあ……」



 懲りないローズが、またもや何事か発言しようとする。マルク殿下は、そんな彼女の腕を取ると、強引に立ち上がらせた。



「ローズ嬢、せっかくの良いお天気ですから、森を散策しませんか。ご案内します」

「あら、でも……」

「行きましょう」



 ローズは、マルク殿下に引きずられるようにして、連れて行かれた。ドニ殿下は、そんな彼らをチラとご覧になると、私の方を向き直られた。



「我々も、散策に出かけませんか」



 アルベール様とエミールが、パッと同時にこちらをご覧になる。殿下は、私の耳元に唇を寄せると、囁いた。



「あなたと二人きりで、話がしたいのです」

「わかりましたわ」



 私は、頷いた。こんな盛大なイベントの場で、危害を加えられることは無かろうと判断したのだ。



 ドニ殿下が私の手を取って歩き出すと、エミールが慌てたように立ち上がった。私たちを追おうというのだろう。だが国王陛下は、彼を引き留めた。



「エミリー嬢。もう少し、話がしたいのだが」

「……はい……」



 渋々といった様子で、エミールが再び座る。私は、ドニ殿下に誘導されるがまま、森の奥へと入って行った。
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