転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

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 拒絶しようとした、まさにその時だった。バタバタという足音が、こちらへ近付いて来た。殿下が、さっと私の体を放す。



「ドニ殿下! こちらにいらっしゃったのですか。マルク殿下が、お呼びですよ」



 小走りでやって来たのは、鷹狩りに参加していた男性貴族の一人だった。彼は、私を見て一礼した。



「ああ、お話中失礼しました。ですが、マルク殿下は急いでいらして。早く戻るように、とのことでした」

「わかりました、すぐ参ります」



 言いながらドニ殿下は、チラと私をご覧になった。



「先に行ってくださいませ。私は、後からゆっくり参りますわ」

「すみません……。では、また後ほど」



 ドニ殿下は、呼びに来た男性に連れられて、急ぎ足で来た道を戻って行かれた。彼らの姿は、あっという間に見えなくなった。



(さて、私も戻るとしましょうか)



 だが次の瞬間、私は背後から、何者かにぐいと腕をつかまれた。振り返って、私は目を見張った。



「――アルベール様!? いつの間に……」

「尾つけて来たに決まっているでしょう。心配で、二人きりになんかさせられますか。そこに潜んで、見守っていたんですよ」



 アルベール様が、付近の草むらを指さす。何だか、妙に不機嫌だった。



「ありがとうございます……。でも、こんな風に会話を交わすのは、まずいですわ。私たち、別れたことになっていますもの……。もう失礼しますわね。私も、戻らなければ」



 踵を返そうとした私だったが、アルベール様は腕をつかんだまま、放してくださらない。それどころか、ぐいぐいと引っ張り、大木の陰へと連れて行くではないか。



「ちょっ……、アルベール様!?」

「俺がニコル嬢の屋敷へ行った時、見に来られたあなたの気持ちが、ようやくわかりましたよ」



 アルベール様は、ため息をつかれた。



「予想以上にきついですね、これは。まるであなたと殿下は、本当に愛し合っているようだ」

「ちょっと、何を仰っているんですの!?」

 

 私は、目を剥いた。



「ドニ殿下は、私をアンバーのように利用しようとしているだけですわよ。それに応えているのは、演技に決まっているじゃありませんの!」

「だからって、キスまでさせることは無いでしょう!」



 アルベール様が、目をつり上げる。



「許してはおりませんわよ! 拒むつもりでした!」

「迷われていたようですが」



 うっと、私はつまった。



(そこ、見てらっしゃったのね……)
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