転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

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「人が呼びに来なかったら、どうするつもりだったんです! 殿下に、唇を許していたんですか!?」

「違うと、言っているではありませんか!」



 アルベール様につられて、私も大声になってしまう。彼は、もう一度深いため息をついた。



「やっぱり止しましょう、この作戦。元々、危険すぎると思っていたんです……。ドニ殿下が最初あなたに近付いたのは、サリアン邸に出入りするのが目的だった。その必要が無くなった今も、あなたを口説き続けているのは、今度は俺を罠にはめるためでしょう。それくらい、自分で対処しますから」



 アルベール様は、私と同じような推測をなさったようだった。でも、と私はかぶりを振った。



「アルベール様は、真相を解明したくないんですの? 私は、全てを明らかにし、ドニ殿下には裁きを受けて欲しいですわ。それに、アンバーの仇も討ってやりたい。そのためには、殿下を油断させ、確たる証拠を引き出す必要がありますわ!」

「じゃあ、このまま続けると?」

「指一本、触れさせやしませんわよ! ただ親しくお話しするだけ、それだけですわ!」



 アルベール様は、しばらく私をじっと見つめてらっしゃったが、やがてふっと笑われた。



「案外強情ですよね、あなたは。……ま、そこも好きですけど」



 アルベール様は、ご自分の上着を脱ぐと、無造作に木陰に広げた。私の手を取り、その上に座らせると、彼は私の目の前に跪いた。



「どうしてもと仰るなら、信じてお任せしましょう。俺は、あなたを全力でお守りします」

「アルベール様……」

「でも、これは約束してください。危険な真似は、しないで。途中で危ないと思ったら、すぐに逃げること」



 私は、彼の目を見て頷いた。



「わかりました。お約束しますわ」

「よろしい」



 アルベール様は、私の頭をくしゃくしゃっと撫でられた。私は、ちょっと唇を尖らせた。



「私を、エミールとお間違えですの?」

「まさか。……だって、あいつにこんなことはしませんよ」



 アルベール様は、私の頬を両手で包み込むと、優しく唇を重ねた。
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