転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

13

(――嘘でしょ)



 男の胸からは、大量の血が噴き出していた。アルベール様は、焦ったように男の傍に駆け寄ると、必死に呼びかけた。



「しっかりしろ! 話せるか? マルク殿下の毒殺を、お前に命じた者の名を言え!」

「アルベール殿、無理です。絶命しておりますよ」



 一緒にいた貴族の一人が、男の脈を取り、かぶりを振る。モンタギュー侯爵は、チッと舌打ちされた。



「口封じにやったな……。仕方ない、発砲した者を捜せ。近くにいるはずだ!」

「承知」



 侯爵らは、再び散って行かれた。私は馬から降りると、おそるおそるアルベール様の元へ近付いた。



「……モニク」



 アルベール様は、うつろな目で私をご覧になった。



「駄目だった。あと一歩だったのに……」

「道はまだありますわ」



 その時、カサカサという音がした。はっと振り向くと、ドニ殿下がこちらへと歩いて来られた。



「見つかった、という声が聞こえたもので、急いで駆けつけたのですが……。その男ですか?」



 殿下は、横たわっている男にチラと視線を投げかけた。素早く観察したところ、銃は携えておられない。どこかへ、捨てたのだろうか。



「捕らえる寸前だったのですが、なぜか何者かに撃ち殺されましてね」



 アルベール様は、じろりと殿下をにらみつけた。



「主犯の名を、吐かせようとしていたのですが」

「アルベール殿でも、そんな失敗をなさるのですね」



 抗議の言葉を、私はかろうじて飲み込んだ。罵詈雑言をぶつけたいのは、やまやまだ。でもそんな真似をすれば、彼に取り入ったのが、水の泡……。



「申し訳ございません。お返しする言葉も無い」



 アルベール様は、案外冷静だった。



「仰る通り、私には精進が足りないようです。もっと、鍛錬せねばいけませんね……。ドニ殿下を、見習わせていただくとしましょう。特に、射撃において。標的を外されることは、無いそうですな」



 ドニ殿下の片眉が、ぴくりと上がる。しかし、彼が何事か口にしようとしたその時、鋭い声が聞こえた。



「ドニ殿下。すぐに、お戻りいただきたい。国王陛下とマルク殿下が、あなたをお呼びです」



 言いながら近付いて来たのは、見覚えのある男性貴族だった。マルク殿下がたいそう信用なさっている、忠臣だ。だが彼は、今回の鷹狩りには欠席だったはずだが。なぜこの場にいらっしゃるのだろう、と私は内心首をかしげた。



「これは、アルベール殿とモニク嬢もいらしたのですか。ちょうどよかった」



 彼は、私たち二人を見比べた。



「あなた方も、いらしてください。サリアン家の元侍女・アンバー殺しについて、大きな進展がありました」
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