転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

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「……それだけの理由で、ドニ殿下はお兄様を殺そうと?」



 コレットが、青ざめる。いや、とアルベール様はかぶりを振られた。



「ドニ殿下は、以前からマルク殿下の殺害を計画されていたのでしょう。……モンタギュー様、こちらをご覧ください。エミールが、バール男爵の故郷へ行って、調べてきてくれたのです」



 アルベール様はモンタギュー侯爵に、ピエールが遺した調香記録を見せると、九年前の王妃殿下の死も、ドニ殿下の仕業である可能性があると告げられた。



「……それに。妃殿下とシュザンヌ妃の間には、確執があったそうですわ」



 私は、ミレー夫人から聞いた話を付け加えた。



「なるほど。ドニ殿下は王位が目的で、マルク殿下の殺害を前から目論まれていた可能性がありますな。王妃殿下を前もって殺害したのは、元々のお母上絡みのお恨みに加えて、その邪魔になることが予想されたから」

「私も、そのように推理しました」



 アルベール様が、同意される。



「そして、妃殿下殺害に用いた有毒植物は、バール男爵から入手した。見返りに彼には爵位を与えたが、恐らくは強請られるか何かで、男爵を殺害するに至った、というところでしょう」



 モンタギュー侯爵は、合点したようなお顔をされた。



「私も、バール男爵邸はくまなく捜索させたのですが。有力な手がかりは得られませんでしたね。怪しげな手帳を所持していた、という話が耳に入ったくらいです。遺体からは発見されなかったので、恐らくは、犯人が……殿下が、持ち去り処分されたのでしょうな」



 侯爵は、アルベール様と同じ推理をなさった。死体から手帳が奪われていたのはアルベール様が確認済みだが、まさかその話はできない。私とアルベール様は、素知らぬ顔で頷いた。侯爵が、再び記録に目を落とされる。



「この、大きく印が付けられたものが、王妃殿下殺害に使われた有毒植物でしょうか……」



 真剣に目を通されていた侯爵だったが、ふと黙り込まれた。彼の視線は、とある植物に留まっていた。ピエールが印を付けていた、別の有毒植物だ。



「……まさか」



 侯爵が、険しい表情で呟かれる。どうされました、とアルベール様は尋ねられた。



「いや、この植物の中毒症状ですよ。頭痛に下痢、皮膚炎とある……。これは、マルク殿下が昔からよく訴えられている症状と、そっくりです」

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