転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

5

 二人きりになると、アルベール様はチラと私をご覧になった。



「植物学者の話。どうして、俺に相談してくれなかったんです?」



 ちょっぴり拗ねたような目つきだ。弱ったなあ、と私は思った。本当は、アルベール様がいない所で、モンタギュー侯爵にこっそり相談するつもりだったのだけれど。侯爵が、思いがけず急に帰られることになったので、あの場で言わざるを得なかったのだ。



「俺の知り合いでよければ、探しますよ?」

「いえ……、大丈夫ですわ。それこそ、今はそれどころではありませんし」



 アルベール様のつてを頼れば、彼本人に相談内容が知れる危険がある。私は、必死に固辞した。



「そう……?」



 アルベール様は、私の腰に腕を回すと、軽く抱き寄せた。



「自分がこんな狭量な男だとは、思いませんでしたよ。あなたがモンタギュー様を頼った、それだけで不思議に苛ついてしまって。あなたが絡むと、どうも俺は、冷静な思考を保てないらしい」



 昼間のことを思い出して、私は赤面した。



「また、そんな顔をして……」



 たまらないといった様子で、アルベール様は、私の額や頬にキスを落とす。やがて私たちは、どちらからともなく唇を重ねていた。夢中で口づけを交わしていた、その時だった。廊下の方で、微かな物音が聞こえた気がした。



(まさか……!?)



 私は、慌ててアルベール様を振りほどいた。だが、遅かった。半分開いた扉の向こうでは、モーリスが呆然と立ち尽くしていた。



「えっと……、モーリス。これは、違うのよ……」



 私とアルベール様は、別れたことになっているのに。どうにか取りつくろおうと、必死で言葉を探していると、モーリスは部屋に入って来た。



「失礼いたしました。のぞくつもりは無かったのですが、扉が少し開いておりましたもので」



 言いながらモーリスは、静かに扉を閉めた。エミールが、急いで出て行ったせいだろう。己のうかつさを呪っていると、モーリスは突如、満面の笑みを浮かべた。



「お二人が、変わらず愛し合っておられると知って、安心いたしました! 別れた、などと仰ったのは、殺人事件の絡みでございましょう? 犯人捜しのための演技、といったところではございませんか?」



 私とアルベール様は、顔を見合わせた。アルベール様が、肩をすくめる。



「執事さんは、何でもお見通しですね」

「そして、お二人の味方でございます」



 モーリスが、力強く頷く。彼は何と、こんなことを言い出した。



「アルベール様。モニクお嬢様のお部屋へいらっしゃっては? 旦那様や他の者たちに見つからないよう、ご案内します」
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