転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

9

 翌朝、侍女たちに支度を調えてもらうと、私はコレットだけを残した。アルベール様から指輪を贈られた、と打ち明けると、彼女は文字通り飛び跳ねて喜んだ。



「ようやく、でございますか! ああ、もう、あのぶきっちょが……。私、やきもきしておりましたのよ。愚図愚図していたら、他の男性がモニク様をかっさらわれるのじゃないかって」

「かっさらわれるつもりは無いし、第一かっさらおうなんて男性はいないわよ」



 謙遜ではなく、本気でそう言ったのだが、コレットは大真面目な顔でかぶりを振った。



「あら、そんなこと。モニク様は、とても魅力的ですもの。昨日の鷹狩りの際も、密かに見つめてらっしゃる殿方は、何人もいらっしゃいましたわよ」

「……まさか」



 全く、そんな覚えは無いが。だがコレットは、そうだと言い張った。



「ドニ殿下のパートナーということで、皆様遠慮してらっしゃっただけですわ」

「そうかしら……?」



 その時、玄関の方で、何やら騒々しい気配がした。コレットは、首をかしげた。



「何かしら? 見て参りますわね」



 コレットは、素早く部屋を出て行った。しばらくして戻って来た彼女は、血相を変えていた。



「大変ですわ。ジョゼフ五世陛下の側近の方々が、お見えのようです」

「ええ!? 何事かしら!?」



 瞬時に頭をかすめたのは、お父様が何かやらかしたのか、ということだった。だが、その懸念を口にすると、コレットは否定した。



「違うと思いますわ。応接間の様子をこっそり窺いにいったら、笑い声が聞こえましたもの」

「はあ……」



 ご用件はさっぱり見当が付かないが、それならば心配することも無かろう。私は、外出の支度を始めた。アルベール様は、結婚式の準備を、と仰っていたが、私はやはりタバインのことが気にかかっていたのだ。デュポン侯爵にお目にかかれないのなら、他を当たるしか無いだろう。



(知り合いの薬師を、訪ねてみましょう……)



 ところが、部屋を出たところで、モーリスがやって来た。



「お嬢様。旦那様がお呼びです。すぐに、書斎へ来るようにと」

「……? わかったわ」



 出かけるのは後にして、私はお父様のお部屋へ伺った。ノックして入室すると、お父様は満面の笑みを浮かべておられた。



「ごきげんよう、お父様。お客様は、帰られましたの? 何のご用件だったのです?」

「ああ、モニク。実は、その話だ」



 お父様は、私を見つめてこう仰った。



「喜びなさい。ジョゼフ五世陛下は、お前をマルク殿下のお妃にと望まれている。つまりは、王太子妃だ。謹んでお受けしますと、お答えしたぞ」
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