転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

2

「えっと……、モーリス?」



 意外なモーリスの喜びように、私は戸惑った。しかも『嬢ちゃま』が出るとは。私が幼少の時、モーリスはいつも私をそう呼んでいた。それが飛び出すということは、彼が興奮状態MAXであることを示している。



「ミレー家のアルベール様なら、申し分ございませんよ。理想的なお相手でございます! ああよかった、嬢ちゃまにそんな方が現れて……」



 驚いたことに、モーリスは目頭を服の袖で拭った。



「嬢ちゃまは、亡き奥様によく似た、控えめで誠実なお人柄。素敵な殿方に嫁いでいただきたいと、ずっと願っていたのでございますよ……。それなのに旦那様ときたら、よりによってあんな男との結婚を決めてこられるなんて。このモーリス、悲嘆に暮れていたのでございます」



 まくしたてるモーリスを、私は唖然として見つめていた。



「ですが、これで安心いたしました! 幸い神様の思し召しと言いますか、婚約者は亡くなりました。物盗りだか痴情のもつれだか知りませんが、この際どうでもよろしい。嬢ちゃま、チャンスですぞ。これを機に、アルベール様と婚約なさいませ!」

「ちょっと、モーリス……。そんなの、無理ですって」



 弱ったなあ、と私は困惑した。まさか、そんな風に期待されるなんて。アルベール様とは、アリバイ作りのために恋人のふりをしているだけだ。婚約なんて展開になるはず、無いというのに。



「そんな弱気でどうするのです! ……そうだ、今こそあのブローチの出番でございますよ」



 モーリスは、私の鏡台の上に置いてあったブローチを手に取った。エメラルドがあしらわれたそれは、お母様の形見である。ここぞという時にはいつも身に着けるもので、昨夜のパーティーでも、当然そうしたのだ。



「これが、効力を発揮するとよいですねえ」



 ブローチを見つめながら、モーリスは微笑んでいる。意味がわからず、私はきょとんとした。



「効力って?」



 するとモーリスは、妙な顔をした。



「もうお忘れですか? 昨日の朝、お話ししましたでしょう。奥様が嬢ちゃまに、これを贈られた理由を」



(――しまった)



 私は、背中に冷や汗が伝うのを感じた。昨日は丸一日、記憶が飛んでいたのだった……。
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