転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!
第二章 突然の求婚

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 それから一夜明けた翌朝、私は侍女たちに支度をしてもらいながら、質問攻めに遭っていた。



「昨夜はびっくりしましたわあ。まさかモニク様とアルベール様が……」

「一体、どうやってお射止めになったんです?」



 私とアルベール様が熱烈なキスをかわしていた、という噂はあっという間に駆け巡った。皆にとっては、バール男爵が殺されたことよりも、そちらの方が衝撃だったらしい。殺人事件よりも、私と彼の組み合わせの方が驚かれるとは。何だか、微妙に複雑な気分である。



「密かにお付き合いしていたのだけれど、お父様が勝手に縁談を決めてしまわれたのですもの。言い出しにくくなってしまって……。でも思いを断ち切れなくて、最後にお会いしていたの」



 アルベール様との打ち合わせどおり、私は悲しげに語ってみせた。侍女たちの顔には、一様に尊敬と羨望の念が浮かんでいる。前世でもよく見かけた光景だ。ハイスペックな男性をゲットした女性に向けられる、特有の表情。さらには悲恋という状況に、うっとりしている様子の者もいる。



 支度が終わっても、侍女たちはまだ話を聞きたそうにしていたが、私は適当にあしらった。彼女たちを退室させ、アンバーだけを引き留める。



「あなたに朝の支度をしてもらうのも、これで最後ね。長い間、お世話になったわ」

「……いえ。荷物をまとめて、昼には出て行きますから。それでは」



 アンバーは、硬い表情でそう答えると、踵を返した。早くも立ち去ろうとする彼女の背中に、私は呼びかけた。



「こんな形でお別れするのは残念だけれど、次の奉公先では、誠実にご主人に仕えて欲しいと思うわ。お元気でね」



 アンバーは、それに返事をすることなく、部屋を出て行ったのだった。



 一人きりになると、私は鏡を見つめた。今日はさぞかし、昨夜の事件について聴取されるに違いない。ボロを出すまい、と心に誓う。



 表情を作る練習をしていると、ノックの音がした。アンバーが戻って来たのかと思ったが、執事だった。モーリスといって、亡きお母様がご存命の頃から、この屋敷に仕えてくれている。彼は、深刻な顔をしていた。



「モニクお嬢様。侍女たちの噂は、本当なのですか。その、ミレー家のご子息と……、というのは」



 モーリスは私のことを、幼い頃からとても可愛がってくれた。そんな彼に嘘をつくのは気が引けたが、この際、いたしかたない。



「……ええ、実は本当なの」



 どう思うだろう、と私はモーリスの反応を見守った。すると彼は、パッと顔を輝かせた。



「嬢ちゃま、やったではございませんか!」
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