転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

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「十年間、恨み続けてきた相手を葬り去ったのにねえ……。僕はなぜだか、ちっとも満足できなかったんですよ」



 ドニ殿下は、遠くを見るような眼差しをされた。



「だからね、こう考えたわけです。王位でもいただけば、この空虚さも満たされるのかなって」



 それはまるで、狩りに出かけて来る、とでもいうくらいの気軽な口調だった。



「とはいえ、立て続けに妃殿下と王太子殿下が亡くなったのでは、さすがに怪しすぎる。だから、兄上には少しずつ毒を摂取していただくことにしました。そうしておけば、いずれ病死なさっても、自然でしょう? 母が、そう処理されたようにね」



 殿下の瞳は、再び暗い光を取り戻していた。



「バールには、引き続き協力させてきたのですが、最近、邪魔になってきましてね。兄上の死が近いと踏んだのでしょう。もっと上の爵位と領地をよこせ、などと言い出しました。でなければ、僕が麻薬販売ルートを提供したことをバラすぞ、と脅してきたんです。冗談じゃない。そんなことが露見したら、ようやく手に入りかけた王太子の座を失ってしまう。……だから、消しました。あとは、あなたの推理通りです」



 もはや言葉を失った私の手を、殿下は不意に握られた。



「モニク嬢。あなたなら、おわかりではありませんか?」

「な……、何をです?」



 私は、思わずベッドの上で後ずさった。



「僕の気持ちですよ。あなたも、お母上を幼い頃に亡くされた。……仮に、バルバラ様の手にかかって殺されたのだとしたら? 復讐したいとは、思われませんか?」



 私は、そっと殿下の手を振り払った。



「いいえ、わかりませんわ。ちっとも」



 私は、ドニ殿下の目を見つめて言い放った。



「あなたは王妃殿下だけでなく、ご自分の欲のために、何人も殺された。……あなたは、ただの殺人鬼です」

「なっ……」



 ドニ殿下が、気色ばむ。私は立ち上がると、廊下に面した扉の方を振り向いた。



「皆様も、そう思われますわよね?」



 言い終えるか終えないかのうちに、扉がバンと開いた。そこにはマルク殿下を中心に、ミレー公爵、モンタギュー侯爵を始めとする王立騎士団の皆様が、勢ぞろいされていた。彼らは、一斉に踏み込んで来られた。
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