転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

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「その、側近の男が何かしたと?」

「ヒ素を盛ったのです」



 ドニ殿下は、端的に仰った。



「もっともそれは、僕が成長後、調べた上での結論です。平素から病気がちだった母の死は、病死で片付けられてしまいました」

「……その男を目撃されたことは、どなたかに仰ったのですか?」

「まさか」



 殿下は、嘲るような笑みを浮かべられた。



「五歳の子供の目撃情報など、まともに取り合ってもらえると思いますか? それを本能的に悟った僕は、固く口を閉ざしました。……代わりに、この手で復讐しようと誓ったのです。母亡き後の、妃殿下の冷たい仕打ちにも、ひたすら耐えて……。そして十年後、ついに実行に移しました」



 殿下の眼差しは、ぞっとするほど冷ややかだった。



「あなたがお察しの通り、僕はバールに殺人の片棒を担がせました。とはいえ、彼だって見返りが無いと動かない。王子とはいえ、十五の僕が自由になる金なんて、知れています。そこで僕がバールに持ちかけたのは、奴の商売拡大を助けることでした。奴は、極秘で麻薬を違法販売していました。僕はそれを、さらに多くの、それも高位の貴族らに売りつける闇ルートを作ってやったのです。こうしてバールは、王妃殿下殺しの話に乗りました」



(そんな真似を……!?)



 唖然とした。王子として、モルフォア王国のためにいつも尽力されていたドニ殿下の像が、ガラガラと崩れていく。



「僕が考えた計画は、王妃殿下と、実行犯だったあの側近の男を、まとめて殺すことでした。それもただ殺すだけでは無く、恥と屈辱を存分に味わわせてから殺そうと考えたのです。あの誇り高い、いつも母を見下してきた妃殿下をね」



 殿下の口元が、冷酷に歪む。 



「媚薬も不義も、僕が仕組んだ罠です。僕が二人を、『十年前のシュザンヌ妃殺しについて証拠を握っている』という手紙で、同じ部屋におびき出しました。そして室内には、バールから入手した媚薬を仕込んでおく、と。その香りに惑わされた側近が、妃殿下に襲いかかった頃合いを見計らって、国王陛下と重臣たちがいらっしゃるように仕向けたのです」



 確かにミレー夫人も、あのスキャンダルには違和感があったと仰っていた、と私はぼんやり思った。



「……でもねえ」



 殿下が、不満そうにため息をつかれる。



「側近の男は、処刑されたのですが。残念ながら、王妃殿下は幽閉処分に留まってしまったのですよ。父上も、甘くていらっしゃる……。とうてい、納得できなくてね。だから幽閉先に、バールから仕入れた猛毒植物を送り込んでやりましたよ」



 すさまじい執念に、私は思わず身を震わせた。そんな私に向かって、彼はさらにこう続けた。



「でも、まだ満足できなかった」
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