転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

4

「婚約者を亡くされたばかりの女性に対して、非常識であることは承知しております」



 アルベール様は、冷静に仰った。



「ですが私とモニク嬢は、かねてより想い合っておりました。いずれは結婚を申し込むつもりでしたが、年齢的にも立場的にも、まだ未熟者という思いがありました。しかも私は、ご令嬢より年下……。ですので、結婚を申し込むにふさわしい地位を築いてからと、考えていたのです。しかしその矢先、バール男爵とのご結婚が決まったとお聞きし……。ひどく、ショックでした」



 アルベール様が、切なそうにうつむく。前世日本なら、役者になれるところだわ、と私は舌を巻いた。



「愛する女性を他の男にさらわれるような真似は、もう繰り返したくありません。ですから時期尚早とは承知しておりますが、こうして申し込みに参ったのでございます。どのみち、私たちの仲は噂になっているようでもありますし……」

「いやいや、そのー、大変ありがたいお言葉ではあるのですが」



 言いづらそうに、お父様が仰る。



「ご承知のように、あー、我が家はしがない伯爵家でございますし。うー、ミレー家とは、そのー、格が違う、と申しますか……」

「父なら、承知しておりますが。お前の決めた女性なら間違いはあるまい、と申しております」

「ははー……」



 お父様は、絶句してしまわれた。顔には、弱ったな、と書いてある。ぶっちゃけ、お父様が今欲しいのは、名誉よりもお金だ。国王陛下のご親戚などという恐れ多い家よりも、下品でもお金持ちの家に、私を嫁がせたいのだろう。



「アルベール様、モニクをそのように想ってくださって、本当に嬉しいですわ」



 そこへ口を挟まれたのは、バルバラ様だった。



「私とモニクは血は繋がっておりませんが、私は彼女のことを実の娘のように可愛く思っておりますの。だからこそ、モニクの気持ちがわかるのですわ。彼女は、大変心優しい性格です。きっと、婚約者を亡くしたショックがまだ癒えないと思いますの」



 ペラペラと喋るバルバラ様を、私は呆れた思いで見つめた。『実の娘のように』とはよく言ったものだ。彼女から優しい扱いを受けた記憶など、一つも無いが。



「ですから、大変ありがたいお申し出ではありますが、今しばらく保留とさせていただくのではどうかと思うのです」



 バルバラ様の顔には、焦りと悔しさがにじんでいた。実の娘ローズを名門貴族に売り込もうとしていた矢先、先妻の娘に、名のある公爵家の長男との縁談が持ち上がった。それが気にくわないのだろう。



「ねえ、あなた?」



 尋ねるというよりは断定するように言われて、お父様がこくこくと頷く。助け船を出してもらって、ほっとしているという雰囲気だ。



「おお。確かに、その通りかもしれませんな。いかがでしょう、アルベール様?」
< 17 / 228 >

この作品をシェア

pagetop