転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

13

「モニク様、どうかなさいましたか?」



 侍女の一人が、心配そうに尋ねる。私は慌てて、いいえ、と答えた。



「何でも無いわ」

「さようでございますか。結婚式の前というのは、女性はナーバスにおなりですからねえ。できるだけ、リラックスなさいませ」

「……」



 私は、またもや憂鬱な気分になった。というのも、ここのところミレー夫人のご様子が変なのだ。式の話題をすると、なぜか気まずそうに話を逸らしてしまわれる。私がミレー邸に来た当初は、楽しそうにウェディングドレスの話題をしてらしたというのに。



(そりゃ、アルベール様のお怪我のせいで、挙式は先に延びたけれど。だからといって、そんな風に話を避けなくても……)



「さあ、お支度が調いましてよ。これで完璧ですわ」

「お気を付けて、行ってらっしゃいませ」



 侍女たちが、口々に言う。ありがとうと礼を述べながら、私はコレットのことをふと懐かしく思い出した。単に優秀な侍女、というだけでなく、彼女は良き相談相手だったからだ。彼女になら、今の不安も打ち明けられたことだろう。



(どうしているかしら。次の奉公先は、見つかったかしら……?)



 アルベール様と共に馬車で出発すると、私は彼にそのことを尋ねてみた。すると彼は、あっさり答えた。



「ご心配無く。当面は、実家でのんびり過ごすそうですから」

「ああ、それならよろしかったわ」



 私は、ほっとした。



「でも、新しい奉公先は必要ですわよね? お父様が勝手にクビにしてしまわれたから、私も責任を感じていますの」



 だがそう言うと、アルベール様はなぜか否定された。



「お気持ちはありがたいけれど、その必要はありません。……また遊びに来させますよ。彼女、あなたに会いたがっています」

「はあ……、そうなんですの?」



 すでに、仕事を見つけたということだろうか。怪訝に思っていると、アルベール様はこう続けられた。



「それから、モーリスさんですが。彼もまた、しばらくはゆっくりするそうです。実は、執事の口を世話しようとしたのですよ。ですが、長年働いてきたことだし、良い機会だから長期休暇と思って休むことにする、とのことでしたので」

「まあ……、いつの間に」



 私は、あっけにとられた。



「あなたが、お二人のことを気にされているだろうと思ってね。様子は、ちょこちょこ見に行っていました。俺が怪我をしてからは、エミールに代わりに行ってもらっています。彼、モーリスさんに懐いているようで」



 アルベール様が微笑む。私も、つられて笑みを浮かべていた。
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