転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

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 私とアルベール様の王宮訪問は、五日後に決まった。その朝、私はややむしゃくしゃしながら、侍女たちに支度をしてもらっていた。



 原因は、デュポン侯爵である。あの後、彼との面会はすぐに決まり、翌日にはお目にかかることができた。――ところが。デュポン侯爵とは、とてつもなく気難しい男性だったのである。一言で言えば、「偏屈老人」といったところか。



 御年六十五歳だという彼は、渋々といった様子で私を出迎えた。『国王陛下の命だから仕方なく面会しただけ』『こんな小娘の質問になぜ答えなければいけないのか』と思ってらっしゃるのは、見え見えだった。



 その態度は、私が話し始めたとたん、さらにあからさまになった。『タバインに男性不妊の副作用があるのではないか』という私の仮説を、デュポン侯爵は一笑に付した。



『不妊は、女性の問題です。男性が原因で子ができないなど、そんなはずは無い。あなたは女性だから、そう思いたいだけでしょう』

『あまり知られていないことかもしれませんが、何らかの原因で男性の精子が欠乏するケースというのも、あり得ます』



 私だって、前世でそういう情報を聞いたことがあるという程度だから、曖昧なことしか言えないのだけれど。拙い説明ではあったが、私は必死に訴えたのだ。しかし侯爵は、耳を貸そうとしなかった。



『医学的根拠があるというのですか?』

『……それは』



 まさか、前世の記憶ですなどとは言えない。それでも私は、必死に食い下がった。



『でも、このピエールの手記をご覧くださいませ! 『子供を授けてやれなくて、申し訳なかった。すべて、タバインのせいだ』とあるではないですか。ピエール夫妻も、シモーヌ夫人とその夫の間にも、お子はいませんでしたわ』

『紙切れ一枚ではねえ』



 デュポン侯爵は、手記を一瞥すると、呆れたように首を振った。



『植物に関するご相談というのが、こんなくだらない内容だったとは。話になりませんね』



 言外に帰れと目で合図され、私はカッとなった。



『紙切れ一枚と仰いますが、それを突き詰めるのが学者のお仕事では? あらゆる可能性を考え、調べ抜いてこそ、権威と言えるのではないですか。話にならないのは、あなたの方です!』



 こうして、私たちの議論は男性不妊の有無に終始し、結局タバインについて踏み込んだ話もできないまま、私は辞することになったのだった。



(国王陛下にまでお願いして、会わせていただいたのに。とんだ期待外れだったわ……)



 私は、ため息をついた。こうなったら、他の専門家を探すしかない。私は、まだ諦めるつもりは無かった。
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