転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

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(そんな勝手な話が、あるかしら……!?)



 私は、思わず陛下とアルベール様のお顔を見比べていた。陛下が、けろりと仰る。



「突然の話で、戸惑うのは当然だ。だが、そなたの優秀さであれば、すぐに王太子としての知識やマナーを習得できるはず。そしてモニク嬢も、問題は無かろう? 相手が替わっただけで、王太子妃の身分に変わりは無い」



 ミレーご夫妻の最近の態度の変化はそういうことだったのか、と私はようやく合点した。『もうお前を処分する立場ではいられない』という公爵のお言葉に、浮かない表情。結婚式の話題を避けておられた夫人。アルベール様を手放すことを、彼らはご存じだったのだ。あれほど、可愛がっておられるご様子だったのに……。



 アルベール様は、しばらくの間沈黙されていたが、やがてぽつりと仰った。



「私がミレー家に馴染んでいる様子だった。先ほど、そう仰いましたね」



 何を言い出すのだろう、といったお顔で、陛下が頷かれる。



「確かに、ミレーの両親には、良くしていただきました。ですが、陰では様々な苦しみがありました。私が彼らの実子でないことは、社交界では薄々知られている。妾腹の子と陰口を叩かれ、父親の存在も知らされず、それでも私はひたすら耐えて参りました。育ててくださった両親のため、長男としてミレー家に尽くそうと……。陛下は私に、ミレー家を見捨てよと仰るのですか」



 すると、ミレー公爵がおそるおそる口を挟まれた。



「ミレー家を気遣ってくださるのは、大変ありがたいこと。ですが跡取りということでしたら、エミールもおりますし……」

「私は、もう用済みということですか!」



 アルベール様が、気色ばむ。私は、とっさに彼に取りすがっていた。



「アルベール様! 言い過ぎですわ」



 そこへ、今まで黙っていらしたマルク殿下が、初めて口を開かれた。



「アルベール殿。戸惑うお気持ちは、よくわかります。そして恐らくは、勝手な話と思われているのでしょう。ですが、このモルフォア王国全体のことを、考えてみてください。私が死に、父上が亡くなった後、一体どうするというのです? 王室に縁のある者で、次期国王にふさわしい人間は、あなたを置いて他におりません」



 アルベール様が、黙り込まれる。それに、とマルク殿下は続けられた。



「私は、あなたを評価しているのです。今回のモニク嬢の作戦の際、あなたは私の王太子としての心構えを、諭してくださった。私に追従を述べるだけだったドニと比較しても、あなたの方が、よほど王位を継ぐにふさわしい。……いずれにしても、よくお考えいただけませんか」



「……少し、お時間をいただけませんか」



 ややあってアルベール様は、静かに仰った。
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