転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

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「――本当ですの?」

「ええ」



 アルベール様は、短く答えられた。



「王位に興味があるわけではありません。正直、剣を振っている方が、性に合っていると思いますし……。それに、いくらご事情があったとはいえ、俺を二十年も放置した国王陛下よりも、ミレー家の方が大切な存在であることは確かです。ミレーの両親を、エミールを、そして何よりもあなたを守り、この家を盛り立てていく……。本当は、それが俺の願いです。だから、最初は何が何でもお断りするつもりでした」



 でも、とアルベール様は静かに続けられた。



「マルク殿下のお言葉を聞いて、俺は考えを改めました。王立騎士団の一員として、俺はずっと、このモルフォア王国のために尽くしてきました。国を愛する思いは、誰にも負けていないつもりです。ならば、私情を優先していいはずがありません」



 そこでアルベール様は、私の顔を見つめられた。



「俺がこの話をお受けすれば、あなたは王太子妃です。きっと、数々のご苦労があるはず。それでも、付いて来ていただけますか」

「もちろんです。アルベール様とご一緒なら、どこまでも」



 私は、間髪入れずにお返事した。



「それに、王太子妃教育なら、途中まで受講しましたもの。残りを受ければ済みますわ」



 冗談めかして言えば、アルベール様もつられたように微笑んだ。



「しかしまさか、こんな身近に父上がいらしたとはね……。ああ、よく考えたら俺はドニ殿下の弟になるわけですか。何だか、微妙な気分だな」



 クスクス、と笑った後、彼はふと顔をしかめて右肩を押さえた。



「痛むのですか?」

「少しね。馬車で揺られたせいかもしれない」

「横になった方がいいですわ」



 私はアルベール様を促して、ベッドへ移動させた。



「鎮痛剤、飲まれます?」

「ああ」



 薬を飲んでしばらくすると、アルベール様はうつらうつらし始めた。私はそっとお傍を離れようとしたのだが、彼はそんな私の手を握った。



「眠るまで、付いていてくれますか」

「ええ」



 アルベール様が、瞳を閉じる。そのまま身じろぎもしないので、てっきり眠り込んだのかと思った。だがその時、彼はぽつりと呟いた。



「よかった……。俺は、バールの子では無かった……」



 絞り出すような声音に、私は胸が締め付けられる気がした。



(本当に、苦しんでらしたのね……)



 アルベール様のお顔には、深い安堵の表情が浮かんでいる。じっと見つめていると、彼の唇からふと、「でも」という言葉が漏れた。やや、ろれつが回っていない。半分、眠りかけているのだろう。



「これで、断る理由も無くなったな……」



 聞き違えたかしら、と私は思った。だがそれきり、彼は寝息を立て始めたのだった。
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