転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!
21
「――本当ですの?」
「ええ」
アルベール様は、短く答えられた。
「王位に興味があるわけではありません。正直、剣を振っている方が、性に合っていると思いますし……。それに、いくらご事情があったとはいえ、俺を二十年も放置した国王陛下よりも、ミレー家の方が大切な存在であることは確かです。ミレーの両親を、エミールを、そして何よりもあなたを守り、この家を盛り立てていく……。本当は、それが俺の願いです。だから、最初は何が何でもお断りするつもりでした」
でも、とアルベール様は静かに続けられた。
「マルク殿下のお言葉を聞いて、俺は考えを改めました。王立騎士団の一員として、俺はずっと、このモルフォア王国のために尽くしてきました。国を愛する思いは、誰にも負けていないつもりです。ならば、私情を優先していいはずがありません」
そこでアルベール様は、私の顔を見つめられた。
「俺がこの話をお受けすれば、あなたは王太子妃です。きっと、数々のご苦労があるはず。それでも、付いて来ていただけますか」
「もちろんです。アルベール様とご一緒なら、どこまでも」
私は、間髪入れずにお返事した。
「それに、王太子妃教育なら、途中まで受講しましたもの。残りを受ければ済みますわ」
冗談めかして言えば、アルベール様もつられたように微笑んだ。
「しかしまさか、こんな身近に父上がいらしたとはね……。ああ、よく考えたら俺はドニ殿下の弟になるわけですか。何だか、微妙な気分だな」
クスクス、と笑った後、彼はふと顔をしかめて右肩を押さえた。
「痛むのですか?」
「少しね。馬車で揺られたせいかもしれない」
「横になった方がいいですわ」
私はアルベール様を促して、ベッドへ移動させた。
「鎮痛剤、飲まれます?」
「ああ」
薬を飲んでしばらくすると、アルベール様はうつらうつらし始めた。私はそっとお傍を離れようとしたのだが、彼はそんな私の手を握った。
「眠るまで、付いていてくれますか」
「ええ」
アルベール様が、瞳を閉じる。そのまま身じろぎもしないので、てっきり眠り込んだのかと思った。だがその時、彼はぽつりと呟いた。
「よかった……。俺は、バールの子では無かった……」
絞り出すような声音に、私は胸が締め付けられる気がした。
(本当に、苦しんでらしたのね……)
アルベール様のお顔には、深い安堵の表情が浮かんでいる。じっと見つめていると、彼の唇からふと、「でも」という言葉が漏れた。やや、ろれつが回っていない。半分、眠りかけているのだろう。
「これで、断る理由も無くなったな……」
聞き違えたかしら、と私は思った。だがそれきり、彼は寝息を立て始めたのだった。
「ええ」
アルベール様は、短く答えられた。
「王位に興味があるわけではありません。正直、剣を振っている方が、性に合っていると思いますし……。それに、いくらご事情があったとはいえ、俺を二十年も放置した国王陛下よりも、ミレー家の方が大切な存在であることは確かです。ミレーの両親を、エミールを、そして何よりもあなたを守り、この家を盛り立てていく……。本当は、それが俺の願いです。だから、最初は何が何でもお断りするつもりでした」
でも、とアルベール様は静かに続けられた。
「マルク殿下のお言葉を聞いて、俺は考えを改めました。王立騎士団の一員として、俺はずっと、このモルフォア王国のために尽くしてきました。国を愛する思いは、誰にも負けていないつもりです。ならば、私情を優先していいはずがありません」
そこでアルベール様は、私の顔を見つめられた。
「俺がこの話をお受けすれば、あなたは王太子妃です。きっと、数々のご苦労があるはず。それでも、付いて来ていただけますか」
「もちろんです。アルベール様とご一緒なら、どこまでも」
私は、間髪入れずにお返事した。
「それに、王太子妃教育なら、途中まで受講しましたもの。残りを受ければ済みますわ」
冗談めかして言えば、アルベール様もつられたように微笑んだ。
「しかしまさか、こんな身近に父上がいらしたとはね……。ああ、よく考えたら俺はドニ殿下の弟になるわけですか。何だか、微妙な気分だな」
クスクス、と笑った後、彼はふと顔をしかめて右肩を押さえた。
「痛むのですか?」
「少しね。馬車で揺られたせいかもしれない」
「横になった方がいいですわ」
私はアルベール様を促して、ベッドへ移動させた。
「鎮痛剤、飲まれます?」
「ああ」
薬を飲んでしばらくすると、アルベール様はうつらうつらし始めた。私はそっとお傍を離れようとしたのだが、彼はそんな私の手を握った。
「眠るまで、付いていてくれますか」
「ええ」
アルベール様が、瞳を閉じる。そのまま身じろぎもしないので、てっきり眠り込んだのかと思った。だがその時、彼はぽつりと呟いた。
「よかった……。俺は、バールの子では無かった……」
絞り出すような声音に、私は胸が締め付けられる気がした。
(本当に、苦しんでらしたのね……)
アルベール様のお顔には、深い安堵の表情が浮かんでいる。じっと見つめていると、彼の唇からふと、「でも」という言葉が漏れた。やや、ろれつが回っていない。半分、眠りかけているのだろう。
「これで、断る理由も無くなったな……」
聞き違えたかしら、と私は思った。だがそれきり、彼は寝息を立て始めたのだった。