転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

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 応接間に近付くと、朗らかな笑い声が聞こえて、私は安堵した。アルベール様をたいそう気に入られたマルク殿下は、頻繁にこのミレー邸へいらっしゃるようになったのだ。どうやらお二人は、たいそう馬が合うらしかった。



「ずいぶん盛り上がっていらっしゃいますわね」



 部屋に入ると、私はお二人に微笑みかけた。



「先日の話をしていたのですよ」



 マルク殿下が、機嫌良く答えられる。



「父上が、真実を明かした時のことです……。最初は、ミレー公爵にあらかじめ打ち明けていただく予定でした。父上に自ら語っていただいたのは、私の意見です。実は、国王陛下が父親であると知った時、アルベール殿がどんな態度を取られるか、この目で観察したかったのです」



 へえ、と私は目を見張った。



「アルベール殿に限ってそんなことはあるまいとは思いましたが、知ったとたんに媚びへつらうようであれば、考え直すことも考慮に入れていました。ドニの件で、懲りていますからね。王位にガツガツした人間を、王室へは入れたくなかったのです」



「では、私は殿下のテストに合格したわけですな……。賢明なご手法だったと思います。ああ、これは媚びへつらっているのではございませんよ」



 アルベール様は冗談めかして仰ったが、マルク殿下は少し不満そうなお顔をされた。



「もう殿下ではなく、兄と呼んでいただけませんか」

「それはまだできかねます。式典までは、と思っておりますから」



 二週間後、ジョゼフ五世陛下のご即位二十五周年記念式典が執り行われる。良い機会ということで、その場で、アルベール様を王子に迎えること、そして私との婚約が発表されるのだ。肩書きは、第二王子である。いくらご病気とはいえ、マルク殿下がご存命の間に王太子となるわけにはいかない、とアルベール様は頑なに固辞されたのだ。



「アルベール殿は、律儀ですな」



 マルク殿下が、苦笑なさる。



「いえ。けじめだと思っておりますので」

 

 アルベール様が、にこやかに答えられる。私は、そんな彼の横顔をチラと見た。脳裏には、先日彼が漏らした言葉が蘇っていた。



 ――これで、断る理由も無くなったな……。



 アルベール様は、あれっきり愚痴めいたことは仰らない。あのお言葉だって、半分寝言のようだった。でも私には、あれが彼の本心に感じられて仕方なかった。



(アルベール様は、本当は王室になど入りたくないのではないかしら……)
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