転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

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 そこへ、ミレー夫人がお顔をのぞかせた。



「モニク、ちょっといいかしら? トピアリーの配置について、庭師が確認したいことがあると」

「すぐに伺いますわ」



 私は、席を立った。



「マルク殿下、少し失礼しますわね」

「構いませんよ。どうぞ、ごゆっくり」



 部屋を出て、一緒に廊下を歩いていると、夫人はため息をついた。



「あと二週間なのね。寂しいわ」

「いつでも、遊びに参りますわよ」

「ええ、それは嬉しいけれど……。欲を言えば、アルベールとモニクの結婚式は、私たちで執り行いたかったわ」



 アルベール様は、ミレー夫妻に、これまでと同じように接して欲しいと懇願なさった。国王陛下のご許可も得て、夫妻だけには、彼に敬語を使うことが免除されたのである。夫妻とエミールは、今まで通りアルベール様を家族として扱っている。それは、私に対しても同様だ。



 とはいえ、エミールはショックを隠せないようだった。しょっちゅう喧嘩はしていても、二人は仲の良い兄弟だった。慕っていた兄がこの家を出ることに、彼はひどく落ち込んでいる様子である。



「これだけのことをしていただいたのですもの。十分ですわ」



 私は、アルベール様からいただいた指輪を懐から取り出すと、夫人にお見せした。そこには、ミレー家の家紋が入っている。王室入りが決まった以上、持っていてよいものか私とアルベール様は悩んだのだが、ミレーご夫妻は是非持っていて欲しいと仰ったのである。



「これがある限り、私たちはあなた方の息子と娘ですわ……。いつまでも」

「……ありがとう、モニク」



 それだけ告げると、夫人は踵を返された。手には、ハンケチを握りしめておられる。おそらくは、涙を見られたくなかったのだろう。



 夫人と別れた私は、再び庭へ出た。待っていたとばかりに、庭師がすっ飛んで来る。



「モニク様。こちらのトピアリーは、いかがいたしましょう?」

「それは、もう少し陽の当たる所の方が……」



 あれこれと話し込んでいた、その時だった。実に聞き覚えのある声が、耳に飛びこんで来た。



「まーっ、お義姉様。王室入りが決まられたというのに、相変わらず地味な庭仕事ですの?」



 なぜか我が物顔で庭に現れたのは、ローズだった。
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